控えめ少年とうっかり少女

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「ちょ…っと、君…っ、?」 「えぇっ!? はいっ?!」 朝の通学時間。 いつもよりも大分遅く家を出てしまい、急いでいたっていうのもあって。まさかこんな時間の通学路、誰かに声をかけられるとは思ってもいなかったため。驚いた私はその場で立ち止まると、後ろへと振り返る。 「…あ、突然すみません…あの...、 後ろのリュック…開いたままですよ?」 向こうからかけた言葉だろうと、驚いた私の反応のせいなのか、少し申し訳無さげに。話しかけて来た相手は多分高校生だろうか、制服を着ているっていうのもあって、自分と同い年くらいかな、なんて勝手な推測。思わず見つめ返す私から視線を逸らした相手は、改めて私の背中側へと指を差すようなそんな仕草。 相手の行動に後ろのリュックを前へと抱え直して、覗き込むようにリュックを見ると、 …言われた通り、チャックは全開で中身が丸見え。…筆箱やらお弁当やら、終いにはお気に入りの本がアコーディオンみたいに仰け反ってる。逆によくこの状態で落っこちなかったなって、その場に留まっている道具たちには感謝というか奇跡を感じたり。なんという団結力。むしろ自分の、鞄へと道具を詰める技術が一流なのでは?なんて、自画自賛しかけてから、 …いや、それにしたってここまで気づかず必死に走って来た自分自身の行動が恥ずかしすぎてふと我に返る。 「ぅ、えぇっ!?ほ、本当だ!ご、ごめんなさい!教えてくれてありがとう…!!」 素っ頓狂な声と共に、相手の目線から隠すように大急ぎでチャックを閉める。 「…ははっ、君が謝る必要は無いですが...、でも良かったです。どうやら何も落ちていないっぽいので、 …間に合って」 「…!」 ーーー…~っ、わ、微笑(ワラ)った…、 改めて相手の方を見るものの。そう話す眼鏡をかけた真面目そうな印象の少年が、ふと見せたその笑顔に思わずときめいて。つい相手を見つめてしまう。 こちらの視線に気付いたような彼が、少し気まずそうに視線を逸らすと、 「…っ、では気を付けてくださいね、」 そう言って。 「…あ、ありがとうございました!」 言われた言葉に咄嗟に感謝の言葉を伝えて、お辞儀をした後、こちらも笑顔を浮かべるものの。 「っ、…い、いえ。どういたしまして、」 感謝をするのはこっちの方なのに、会釈をしつつ去って行く相手の行動が丁寧で。…きっとこの人は日頃から親切で優しい人なんだろうなぁと。つい笑みが零れる。 ーーー…素敵な人だったなぁ、また会えるかな…? なんだか温かい、自分でもよく分からないようなそんな不思議な気持ちが芽生えて、初対面の人に対して珍しくそんな好意を抱いたものの…再び歩き出してから、…ふと。 ーーー…って、私あの人の名前すら聞いてないじゃん!! あぁもう、私のおっちょこちょいー!! 自分のうっかり具合に気づくものの。慌てて顔を上げ見た道の先。案の定、彼の姿はもう見えず、眺めた後頭を抱える、そんな朝の出来事。 Fin.
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