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結論を言うなら。チューリップを咲かせる魔法、は滅茶苦茶簡単だった。ほんの少し、チューリップに流れる魔力を強化して、成長を早くしてやるだけでいいのだから。
それに、魔力の流れを調節すれば、花の形状や色を変えることだってできるという。僕は舞い上がっていた。本当は赤いのチューリップが良かったのに、赤はケンちゃん達に取られてしまって、ジャンケンで負けた僕は白いチューリップを咲かせることになってしまったのだから。どうせなら、魔法を使って赤にチェンジしてやろうと考えたのである。
十月。少し肌寒くなってきたこの時期。
僕達は授業で、それぞれの鉢植えに土を盛り、球根を植えたのだった。ケンちゃんとその友達はわざわざ僕のところに来て、僕の手元を覗きこんでニヤニヤと笑うのである。
「新橋のチューリップ、芽なんか出なかったりして。一人だけ育たなかったらお笑いだよなー」
「あるんじゃねー?成績いいからっていっつもお高く止まってさ。人をバカにしてばっかりなやつなんかのところじゃ、チューリップも咲きたくないだろーよ」
「違いねー!あははははは」
「……バカになんかしてないつうの」
そもそも、自分がバカにしてるんじゃなくて、宿題もまともにやろうとしないお前らがバカなだけじゃん、と言いたい。言ったらまた面倒になるので黙っているが。
彼等はきっと、僕が魔法使いに選ばれたことどころか、この世界の裏側に魔法の文化があることさえ知らないのだろう。きっとクルベットじいさんの姿さえ見えないに違いない。選ばれなかった人間の、なんと可哀想でみじめなことか!
――今に見てろよ、バーカ。
僕は肥料を混ぜた土に水をあげながら、こっそりと魔法の言葉を唱えたのだ。
――春になる前に咲かせて、あっと驚かせてやるんだからよ!
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