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今夜も、跳ねる様なウッドベースの音が、
人けのない通りに漏れ響いている。尚樹も肩で調子を取りながら
男の横を通り過ぎる。すると、背後から声をかけられた。
「あの、バーのマスターさんの、尚樹さん、ですか?」
「えっ?」
はじかれる様に振り返る。暗がりの外灯の下とはいえ、男の顔は見える。
知らない、見たことのない男だった。
突然だし、おまけに自分の職業と名前まで知っていることに、
驚きに加えて少々の恐怖も感じた。
そんな尚樹の心情を読み取ったかのように、男は丁寧にお辞儀をした。
妙な動きをしない事をアピールするかのようだった。
物取りとか、そういうあやしい人ではなさそうだ。
でも一応距離はとって、男に返事をした。
「はい、そうですが・・あの、どちらかでお会いしていましたか?」
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