裏路地で会った男

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 明かりの灯らない店のドアを開け、 開店中だと間違えて客が入ってこないようにドアに鍵をかけ、 カウンター奥の納戸の電気だけをつけて食材を棚に入れる。  乾物を入れてから次に冷蔵庫へと体を向けると、 カウンターの向こうに一瞬黒い人影のようなものが見えた、気がした。  ドアには鍵もかかっているし、なんといっても ドアが開いた音がしていないのだから、誰かが入ってきたとは思えない。  それに一番肝心な事は、見えた気がした、ということ。 はっきり見えたわけではない。暗い店内なんて慣れているはずなのに、 今夜はめずらしくビビってしまった。 たぶん、さっきの男との唐突な出会いが尾を引いているのだろう。  暗い路地の外灯の下に立っていた男に突然声をかけられる、 なんて経験は滅多にあるもんじゃない。 あれがもしも知り合いの知り合いなどではなければ 話も早々に逃げだしていたかもしれない。 「俺としたことが」  わざと声に出して自分を笑う。気のせいは気のせいで終わらせて さっさと飲みにでもいくか、とすばやく電気を消して店を出た。
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