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笑いながらシェイカーを振り、カクテルグラスに注いで
花を添えて照美の前に置く。一口飲んで目じりを下げる照美に、
尚樹はここぞとばかりに話を切り出した。
「そういえばね、照美さん、先日買い出しの帰りに
路地で声をかけてきた男性がいるんですよ、バーのマスターですよねって。 見たことのない人だったんだけど、俺の名前まで知っていて。
そしたら長澤さんご夫婦から伺ったって言うんでね」
聞いて、照美の表情は平たくなった。
すぐににこやかな目元に戻ったが、その一瞬の表情を見逃さなかった
尚樹の中で、きっと思い当たる人物はいるのだろうと察した。
「どんな感じの人でした?その男性は」
照美の質問に答えようとあの時の風貌を思い出そうとしたのだが、
なぜか記憶から引っ張り出せない事が不思議に思えた。
例えば背が高かったとか、どういう系等の顔つきだったとか、
細かいところまで覚えていないにしても
服装はどういうタイプのものだったかなど、いくら暗がりだったとはいえ、
あれだけインパクトの強い出会いだったのだから憶えていそうなものなのに。 今となっては説明できないほど頭の中に残っていなかった。
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