路地で会った男、来店

2/6
前へ
/101ページ
次へ
「いらっしゃい」  反射的にドアに顔を向ける。だけど不思議なことに、 客はもうカウンター席に座っていた。 ・・え?今ドアが開いたばかりじゃなかったか? もう座っているなんてすごく・・動きが早くねえか?・・  とにかく、やっと客が入ってくれたので、 尚樹はさっそく客の前にコースターを置いた。 「いらっしゃい。何をお飲みになります?」  席に着いていた男は、尚樹の顔をじっと見てからウィスキーをと、 ぼそりとした声で注文した。 「ウィスキーは、どの銘柄にしますか?」  男はまたしてもぼそりとした声で、 マスターにお任せします、と小さく頭を下げた。  初めての客にお任せと言われるとどうしても、迷って一呼吸おいてしまう。   酒瓶の並ぶ背後の棚を振り返ろうとした時、 たまたまカウンターの内側に置いてあった白州が目に入った。 お、これにするか、と瓶を手に取り客にラベルを見せる。 客はにんまりと笑い、大きく肯いた。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加