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「いらっしゃい」
反射的にドアに顔を向ける。だけど不思議なことに、
客はもうカウンター席に座っていた。
・・え?今ドアが開いたばかりじゃなかったか?
もう座っているなんてすごく・・動きが早くねえか?・・
とにかく、やっと客が入ってくれたので、
尚樹はさっそく客の前にコースターを置いた。
「いらっしゃい。何をお飲みになります?」
席に着いていた男は、尚樹の顔をじっと見てからウィスキーをと、
ぼそりとした声で注文した。
「ウィスキーは、どの銘柄にしますか?」
男はまたしてもぼそりとした声で、
マスターにお任せします、と小さく頭を下げた。
初めての客にお任せと言われるとどうしても、迷って一呼吸おいてしまう。 酒瓶の並ぶ背後の棚を振り返ろうとした時、
たまたまカウンターの内側に置いてあった白州が目に入った。
お、これにするか、と瓶を手に取り客にラベルを見せる。
客はにんまりと笑い、大きく肯いた。
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