39人が本棚に入れています
本棚に追加
長澤夫妻の告白
翌日。
準備中の札を掛けてあるにもかかわらず、
誰かが重厚な木の扉をノックしている。まだ夕方の5時だから、
さすがに怪しいとか怖いとかまでは思わなかったが、昨夜の今日なので、
裏口から出て、そっと表通りに回って様子を見た。
ドアの前に立っていたのは、長澤夫妻だった。
「長澤さん、どうしたんですか?」
後ろから声をかけられた二人は、びっくりした顔で振り返った。
「あ、マスターすみません。今お店に来られたんですか」
「いえもう開店の準備をしていたんですけど、
準備中にノックする人がいるなんて珍しいことだったんで・・
誰かと思って裏口からのぞきに来ちゃいました」
昨夜気味の悪いことがあって、と心の中では呟いていたが、
顔では照れ笑いを浮かべた。
「ところで開店前にいらっしゃって、なにか急ぎの用でも?」
二人の顔つきから、早くに一杯やりたいなんていう
呑気な雰囲気ではない事は感じ取った。深刻というか切羽詰まったというか、 とにかく普通ではない感じだ。
「とにかく中へ。どうぞこっちの裏口から」
まだ店のドアは鍵がかかったままなので、
中に入って鍵を開けるよりは裏口から入ってもらう方が手っ取り早い。
ビルの裏手の小さめのドアをくぐり抜ける信彦と照美の表情は、
秘密の場所にでも入り込んだ時のように、興味深げに辺りを見回した。
最初のコメントを投稿しよう!