39人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな馬鹿な話をわざわざ言いに来たのか、
店を開店する前の忙しい時間に、と二人に対する憤りの言葉が
尚樹の腹から喉にかけて行ったり来たりしている。
実際には、口には出せないことくらいわかっている。
いくら驚いているからと言って、そんな酷い言葉を吐き出してしまったら、
お互いの心にしこりが残ってしまう。
だけど、ああそうですかと受け入れられる内容ではないことを
話しに来るからには、普通では理解できないようななにかがあるのだろう。
いや、あるのだ。
沈黙の空気が少し軽くなったような気がする。
尚樹の後ろに誰かがいて、長澤夫妻と対話してみろと
背中を押してくれる気配を感じた。
「あの・・解るように説明してもらってもいいですか?
なんだかとんでもない話のようだけど、最後まで聞きますから」
落ち着いた口ぶりの尚樹に少しは安心したのか、夫婦二人が肯いて、
口を開いたのは信彦のほうだった。
「ありがとうございます。じゃあ、話を始めます」
微かに震える信彦の声は、そこから一気に加速していった。
最初のコメントを投稿しよう!