第2章:予期せぬ遭遇

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第2章:予期せぬ遭遇

「なあ南野。お前、最近何か良いことでもあったのか? やけに機嫌が良いように見えるんだけど」 「え? いや、別に何もないけど」  真奈美先輩と再び付き合い出してから、1ヶ月が経とうとしていた。ゴールデンウィークも終わった5月の下旬、高橋と一緒に当直業務をしていると、ふと高橋が不思議そうな顔をして問いかけてきた。 「そうか? 何か、彼女が出来たような顔してるからさ」 「んぐっ……!?」  首を傾げている高橋に指摘されたオレは、口に含んでいたコーヒーを少しだけ吐き出しそうになる。高橋から予想外の指摘を受けて、オレは少しだけ焦っていた。 「そ、そんなことあるわけないだろ。そんな簡単に彼女が出来るか。お前じゃあるまいし」 「そっか。それもそうだよな! やっぱ俺の勘違いか?」  鼻歌を歌いながら、高橋はデスクトップ画面に表示されていた急患患者のカルテを開いていく。失礼なことを言われたような気がしたが、また勘付かれても面倒だったので、このままスルーしておくことにした。  真奈美先輩と付き合い始めてから一緒に出かけたことはあったが、全て車で遠方まで出かけていた。職員数が余裕で1000人を超える大学病院のスタッフによる情報網は凄まじく、日々色々な噂が飛び交っている。中でも恋愛や不倫に関する話題はほとんど全員が食い付いてくる内容であり、ましてや院内恋愛ともなれば、日々噂の的となってしまうのは明白だった。お互いに迷惑がかかっても面倒なことになるため、真奈美先輩と付き合っていることは誰にも話していない。  高橋がオレに背を向けてパソコンを見ている中、オレは長テーブルに備え付けられていた椅子に腰掛けてコーヒーを飲む。救急患者の検査連絡が来るまでスマートフォンでニュースを見ていると、メッセージアプリの通知が鳴った。 『当直お疲れさま。明日の金曜日だけれど、仕事が終わったら涼介くんの家に行っても良いかな? 旅行のことも話したいし』 『もちろん大丈夫ですよ。当直が終わったら夕方まで寝ているだけですから、夕飯作って待ってます』   高橋に見つからないよう、先輩から来たメッセージに素早く返信する。時間はまだ23時であったため、先輩もまだ起きていたのだろう。 「……お前、やっぱり彼女出来ただろ? スマホ見ながらニヤニヤして、気持ち悪いな」 「だから違うって言ってるだろ。そして、人の顔をこっそりと覗き込むんじゃない」  高橋に本日2度目の図星を突かれ、オレは周りへの警戒を改めて強めることにした。
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