第2章:予期せぬ遭遇

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「そっか。それは気を付けないといけないね。高橋くんが気付きかけているってことは、他の人も気にしているかもしれないから」 「はい、本当に気を付けます」  当直業務が終わった日の夕方、日中の仕事を終えた真奈美先輩が家にやってきた。来週に計画している旅行の予定を決めるため、わざわざ先輩が来てくれたのだ。  適当に作った夕飯を済ませ、2人で洗い物をしながら今後のことを話していく。 「でも、本当にここの病院は大きいね。私が前いた病院とは比べ物にならないくらいの規模だよ」 「医療従事者だけで1000人を超えているとかって言われたますからね。事務方とか加えたら、2000人以上いるって話ですよ」  同じ職場に勤めているとはいえ、まだ話したことがない人が大勢いるのも事実だった。  特に放射線技師は、病棟で働いているスタッフや、事務職の人たちとは話す機会がほとんどない。そのため、街中でふと遭遇しても気が付かないことがあったりする。 「確かに、今日もお昼休みに誰かの恋愛話で盛り上がっていたわ。循環器内科の先生と、どこかの看護師が付き合っているとかって言ってたわね」 「ああ……確かそれは、中条先生じゃないですかね。循環器内科の」 「うん、確かにそんな名前だったと思う」  中条先生は、確か消化器内科病棟の係長と付き合っていたはずだ。それはもはや病院内で知らない人はいないほどの有名な話であって、2人でデートをしている姿を色々な人が見かけたということだった。  2人が噂になる前は、栄養士の人が噂になっていたけれど、中条先生のインパクトが強過ぎて、そちらの方は印象がかなり薄れてしまっていた。 「私も気を付けないといけないってことね。こうやって泊まりに来たりするのも、本当は危険なことなのかな……?」 「それは大丈夫だと思います。外に出ることが無ければ、周りの人たちに見つかることはないと思いますから。それに、会えないのはオレが寂しくなります」 「ふふ、どうしたの? 何だか最近、素直になったんじゃない? 何かあった?」 「あ、いや……別にそういうわけじゃ」  真奈美先輩の指摘は、きっと当たっている。  過去に犯した過ちを繰り返さないため、オレは先輩のことを大切にすると決めた。それと同時に、自分の気持ちに嘘をつくのはやめようと思った。その変な意地とプライドみたいなものが、先輩を傷つけてしまったのだから。
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