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「久しぶりにゆっくり遊んだ感じがする。涼介くんと一緒だからか、とても楽しかったわ」
「オレもです。普段はあんまりこういうところは来ないんですけど、先輩と一緒だと楽しいです」
ゴールデンウィークが終わり、梅雨の訪れが始まった頃、オレと真奈美先輩は2人でちょっとした旅行に来ていた。
新幹線を乗り継いで、東京を経由して大阪へと到着する。そして、数年ぶりにテーマパークを訪れたオレは、先輩と一緒に色々なアトラクションを楽しんだ。
その後に旅館へと到着したオレたちは、そのまま露天風呂がある温泉へとゆっくりと浸かっていた。予め混浴風呂を予約していて、短い時間ではあったが、先輩と一緒に入る露天風呂を満喫していた。
普段ならこのような遠出はほとんどしないオレだったが、近場は病院関係者と遭遇する可能性が高かったので、片道5時間はかかる関西を旅行地として選んだのだ。病院関係者と遭遇してしまっては、とてもではないが旅行気分ではいられなくなってしまうだろう。
「お部屋にもお風呂があるみたいだから、夕飯を食べたら一緒に入る?」
「そうですね。少し休んだら、また入りましょう」
露天風呂を上がったオレと先輩は、自分たちの部屋があるフロアへと戻っていく。和風な造りをしている旅館は、創業から100年は経っているということで有名で、昔ながらの和室が老若男女問わず人気だった。それこそ全国から多くの旅行客が訪れて、予約を取ることも中々難しいと有名だった。
エレベーターを降りて、自分たちの部屋の方へとゆっくりと歩いていく。しかし、部屋まであと少しというところの角を曲がると、オレは角から出て来た人とぶつかってしまう。
持っていた着替え入れやバックを落としてしまうが、先にぶつかってしまったことへの謝罪をした。
「あ、す、すみません。よく見ていなくて……」
「……南野くんか?」
「えっ……?」
視線を上げて、ぶつかってしまった人の顔を確認しようと顔を上げると、聞いたことのあるような声が聞こえる。
そして、視線を上げた先にいたのは、オレが知っている人物だった。
「せ、先生……? どうして、ここに?」
「南野くんこそ……どうしてここにいるんだ?」
オレたちにとって、最も恐れていたことが起こってしまった。
「……あんた、この前と同じこと言ってるわよ」
隣にいた女性が、呆れたように頭を抱えていた。
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