プロローグ:8年ぶりの再会

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 面倒なことや嫌なことがある日というのは、楽しいことや楽しみにしている日よりも訪れるのが早い気がする。それは仕事だけでなく、プライベートにおいても同様だった。 「ふっふーん。さてさて、新しくリハに来た子というのは誰かなぁ〜」 「……全力で帰りたくなってきた」  金曜日の仕事が終わった夕方6時。オレは高橋に引きずられるようにして、理学療法士や作業療法士の人たちが所属しているリハビリ部門との飲み会の会場へと向かっていた。  足が鉛のように重くなっているオレとは対照的に、高橋は朝から上機嫌だった。その理由は、今年から新しくリハビリに配属された女性も参加するという情報が入って来たからだった。まるでオレの生気を吸い取っているかのように、高橋は仕事を終えた後とは思えないテンションの高さだった。 「おつかれさまでーす! みんな揃ってますか〜!?」 「幹事が遅くてどうすんだよ! 先輩を待たせるんじゃないよー」 「高橋くんと南野くんが最後だから、これで全員かな? ほら、高橋くんは幹事なんだからこっち! 南野くんは適当に空いてる席に座って? あっ、奥の席が空いてるかも!」 「……ありがとうございます」  会場に到着すると、オレと高橋以外の人たちが勢揃いしているようだった。到着するやいなや、高橋は幹事と思われた同僚とリハビリの人たちに拘束され、幹事席へと連れて行かれてしまった。残されたオレは、年が近そうに見えたリハビリの幹事の女の子の指示に従うようにして、空いている席へと向かう。広々としたお座敷の会場には50人ほどの参加者がいて、それなりに高い参加率を誇っていた。  テンションが爆上がりだった高橋と違い、席へと向かっていたオレのテンションは駄々下がりだった。そもそも、こういう大勢での飲み会というのは得意でなかったし、あまり話したことのない人と話すのも得意ではなかった。こちらが気を遣わなくてはならないし、相手も気を遣わなくてはならないだろう。口数が多くないことを自覚していたからこそ、このような場を避けて来たことが多かった。  「おつかれー、南野くん! 相変わらず冴えない顔してるね! ほら、座って座って! こんな可愛いリハの子たちがいるんだから、元気出して!」 「……お疲れさまです」  案内された席へと向かうと、そこは理学療法士の女の子たちのグループの席だったようだ。1人の先輩に声を掛けられて、オレは重い足取りで席につく。テーブルを挟んで目の前にいた女の人は、オレの顔を見ると小さく会釈をした。病院内で見たことが無い人だなと思いつつも、その人の顔を良く確認しないまま、オレは座布団へと腰掛けた。
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