第2章:予期せぬ遭遇

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「南野くんたちは旅行かい? まあ、こんなところまで来ているということは、そういうことだろうと思っていたけど」 「はい、そうです。吉田先輩と一緒に来たかったんですけど、近場だと病院関係者と遭遇するリスクがあるから、怖くてこんな遠いところまで来てしまいました」 「まあ、そうだよな。あの病院関係者に見つかったら、どんな噂を立てられるか分かったもんじゃないからな。オレたちも十分に気を付けているつもりだけど、南野くんたちも気を付けるようにな。余計な噂になると、お互いにやりづらくなってしまうからな」 「そうですよね。今までも注意してきたつもりですけど、これからも気を付けます」  瀬川先生と病院関係者についての話をしていると、先輩と桐ヶ谷さんも女性同士で話が盛り上がっているようだった。  年下である先輩がビールを注ぎ、注がれた桐ヶ谷さんがふっと微笑む。いつもは厳しそうな表情をしていた気がする桐ヶ谷さんだったけれど、こういう表情も出来るのかと意外な気持ちになった。 「桐ヶ谷さんは、瀬川先生と最初から知り合いだったんですか?」 「知り合いというか、高校の同級生かな。高校ときは別に話をする仲じゃなかったんだけど、たまたまここの病院で再会したのよ」 「そうなんですか……良いですね、運命みたいで」 「そ、そんな恥ずかしいこと言わないでよ。吉田さんこそ、南野くんとはどういう関係だったのよ?」 「私は……そうですね。涼介くんとは高校の部活の先輩と後輩だったのですけど、色々な理由があって私が卒業するときに別れたんです。お互いに別々の道を歩んでいたのですが、ふと大学病院から出てくる涼介くんを見かけたんです。それで、涼介くんのことを追いかけてここの病院に来ました」 「そ、そうなの? 南野くんに彼女がいるとか思わなかったの?」  先輩からの告白に、桐ヶ谷さんは驚いているようだった。先輩も苦笑いを浮かべて、続きを話す。 「そうですよね。普通に考えたらそう思うとお思います。でも、そのときの私は涼介くんに会えたことが嬉し過ぎて、そこまで考えていませんでした。気が付いたら、ここの病院を受験するための準備を進めていたんです」 「へぇ……そういうこと、中々出来ることじゃないと思う。私には真似出来ないから、そういうの羨ましいかも。だったら、南野くんはかなりの幸せ者ってことね。大事にしなさいよ、吉田さんのこと」 「は、はい」  桐ヶ谷さんにしっかりと釘を刺されて、オレは背筋を伸ばして返事をする。そんな様子を、瀬川先生は微笑ましそうに見守っていた。
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