プロローグ:8年ぶりの再会

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「南野くんはビールで良い? それとも、他のお酒の方が良いかな? 今日はリハビリの中でもめちゃくちゃ可愛い子たちが来てるから、楽しんでいってね! ほら、吉田さんなんて、南野くんが好きそうなタイプの女の子じゃない?」 「……えっ?」 「……久しぶりだね……涼介くん」 「吉田……先輩?」  理学療法士の先輩に声を掛けられ、オレは目の前に座っていた女の人の顔をようやく確認する。そして、その人の顔を見た瞬間、オレの思考回路は完全に停止してしまった。  ストレートの黒髪が腰あたりまで伸びて、華奢でモデルみたいな体型をしている。顔もどこかの雑誌のモデルなのではないかと錯覚してしまうくらいの美貌だった。そして、オレはその容姿に心当たりがあった。声を聞くことにより、それは確信へと変わっていく。 「へっ? 先輩って……南野くん、吉田さんと知り合いなの?」 「知り合いというか……同じ高校の先輩と後輩です」 「えーっ、ウソーっ!? こんなところで再会するとか、すごい偶然じゃない!? ほらほら、せっかく会えたんだから、2人でゆっくりと話しなよ! 私は適当に他のところで喋ってるからさ!」 「え、あ、いや……」  オレが止める間もなく、理学療法士の先輩はオレと先輩を残して旅立ってしまった。いつの間にか高橋の掛け声で乾杯をしていたようで、会場は一気に不特定多数の喧騒に包まれる。  そんな中、オレと先輩はお互いに何を話したら良いのか分からずにいた。それはまるで、ここにいる2人だけがこの空間から切り離されているかのようだった。 「……久しぶり……だね。元気だった?」 「……はい」  先輩からの問いかけに、オレは何とか声を絞り出して返事をするのがやっとだった。先輩の顔を直視することが出来ずに、オレは目の前に置かれていたグラスの中に入っていたビールを口に含む。普段ビールなんて飲まないものだから、より一層の苦味が口内に広がっていった。 「8年……かな。私が高校を卒業して涼介くんと会わなくなったのは。そして……私が涼介くんのことを捨ててしまったのも」 「っ……」  先輩の悲しげな声がオレの胸を貫いていく。めちゃくちゃ優しい先輩のことだから、きっとオレに気を遣っているのだろう。  やったのことで視線を上げたオレの視界に、高校のときとは比べ物にならないくらい綺麗になっていた先輩の姿が飛び込んでくる。しかし、その容姿とは裏腹に、先輩の表情には深い陰りが見え隠れしていた。
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