第3章:訳アリのカップルたち

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第3章:訳アリのカップルたち

 長く感じた梅雨が明けると、一気に気候が夏本番を告げる。うだるような暑さが毎日のように続き、朝から灼熱の太陽が容赦なく照りつける。  8月に入ったある日、高橋と一緒に当直業務をしていると、消化器内科で当直をしていた瀬川先生から連絡が入る。高橋は先に仮眠室で寝ていたため、オレが電話を受けた。 「ああ、南野くんか? すまないが、これからCT検査を頼めるか? 単純(造影剤を使用しない)CTで構わない。病棟に入院している患者だから、すぐに向かうことは出来るはずだ」 「分かりました。こちらはすぐに準備可能です」  緊張したような口調の瀬川先生の声を聞き、オレも自然と身が引き締まる思いがする。いつもは穏やかそうな雰囲気の瀬川先生も、いざ白衣を着て仕事をすると、人が変わったように真剣になることが多かった。  瀬川先生たちと遭遇したというハプニングがあった旅行が終わった後、オレと真奈美先輩は周囲を警戒しつつの交際を続けていた。病院関係者に見つかるとロクなことがないと知っていたため、デートはわざわざ遠くの街まで繰り出すか、家でのんびりと過ごすことが多かった。それでも十分満足はしていたが、どことなく近場で気軽に遊びたいという葛藤があったのも事実だった。真奈美先輩にそのことを相談したところ、先輩も同じような気持ちであることを話してくれた。しかし、何も考えずにこの街に繰り出すわけにもいかないので、オレたちはどうしたら良いのか悩んでいた。  いっそのこと、周囲に全て話して公にした方が楽になるのではないかと思ったりもする。別に悪いことをしているわけではないのだし、胸を張って堂々としていれば良いのだ。しかしながら、そうだとは頭の中で思っていても、行動に移せるかどうかは別問題であった。 「すまんな南野くん、頼む」 「頭はこっち? それともこっち?」 「あっ……こっちでお願いします」  車椅子に乗った患者がCT室に到着する。自動扉を開けて患者を連れて来たのは、瀬川先生と桐ヶ谷さんだった。どうやら、桐ヶ谷さんも夜勤業務で働いていたようだった。 「桐ヶ谷さんは腰を支えて。オレは体を支えてこっちに移す」 「分かりました」  瀬川先生と桐ヶ谷さんは、息の合った様子で患者を車椅子から検査台へと移す。患者は足に力が入っていない様子に見えたが、瀬川先生と桐ヶ谷さんの力によってスムーズに検査台へと移すことが出来ていた。さすが、長年交際を続けているカップルという感じであり、お互いに交際しているという事実を微塵にも感じさせない演技だった。
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