第3章:訳アリのカップルたち

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「はい、これで検査は終わりです。お疲れさまでした」  CT検査を終えると、瀬川先生と桐ヶ谷さんは再び2人で協力して、患者を車椅子へと戻す。画像を確認した後に病棟へと戻ることを桐ヶ谷さんに伝えると、瀬川先生はオレがいたCT室の操作室へと入って来た。 「とりあえず、画像上では問題なさそうだな。そういえば、こういうときにこんな話をするのは変かもしれないが、今度の週末は当直業務が入っていたりするかい? あと、吉田さんもだけれど」 「えっ? あっ、いや……週末は当直は入っていないので、空いています。先輩は基本的に当直は無いので、予定が無ければ大丈夫だと思いますけど」 「そうか。じゃあ、後で吉田さんに声をかけておいてくれないか? 今度の週末、もし空いていたら付き合って欲しいんだ」 「付き合うって……オレと先輩がですか?」  椅子に座っていたオレが首を傾げると、立っていた瀬川先生が優しく両手でオレの肩を叩く。まるでそれは、力を抜けと言われているような気がした。 「病院内で付き合っていると、なかなか自由に街中を歩くことが出来なくて大変だろう? まるで、そんな悩みを抱えているような顔をしていたから、ちょっと気になってな。オレの気のせいだったらすまんが」 「っ、それは……」  同じ病院内で付き合っている人がいるという共通点はあるが、やはり経験が長い分だけあって、瀬川先生は冷静にオレたちのことを見ていたようだった。  既に瀬川先生と桐ヶ谷さんにはバレていたため、オレが今更瀬川先生に隠すようなことは何もなく、小さく頷いた。 「気持ちは分かるさ。オレと結衣だってそうだからな。家にずっといても退屈するし、かと言って街中にホイホイと出て行くわけにもいかないしな。だから、お互いのためにならないかとは思っていたんだよ」 「何か、変な気を使わせてしまっているみたいで、すみません。恥ずかしい話ですけど、瀬川先生の言う通りです」 「何も恥ずかしがる必要は無いさ。この病院の恐ろしいネットワークを考えれば、君たちは良くやっていると思うよ。ストレスが溜まっても良くないから、ここはオレの話に乗ってくれないか?」  周囲から絶大な信頼を寄せられている瀬川先生の提案に、オレは素直に乗ることにした。  同じ境遇にいる瀬川先生ならば、オレたちのことを騙すようなことは間違ってもするはずがないし、そんなことをしても何のメリットも無いと思った。  後ほど先輩に確認して時間を空けてもらったため、オレは今度の週末に瀬川先生と待ち合わせをすることになった。
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