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「あっ、おかえり。後ろの2人も、荷物持ちありがとね」
「こんにちは、桐ヶ谷さん。お久しぶりです」
「あっ、こ、こんにちは」
買い物を終えたオレと右京さんは、瀬川先生の後を追ってスーパーから歩き出す。
数分ほど歩くと、やがて前方に大きなマンションが現れてくる。瀬川先生はそこのロビーの電子キーを解除すると、そのままオレたちを中へと案内する。エレベーターに乗って10階まで登り、そこのフロアのある部屋の鍵を開けて中へと入る。すると、エプロン姿の桐ヶ谷さんがオレたちを出迎えてくれた。
「さっ、男子たちが買い物から帰って来たわよ」
「……こんにちは、圭さん」
「雫さん……こんにちは」
「ふふ。涼介くん、びっくりしたでしょ?」
「真奈美先輩……」
広々とした玄関から中へと入ると、これまた広大なリビングが姿を現した。奥行きがあるリビングは、ぱっと見で30畳はあるのではないかと思うくらいだった。天井からは華やかなLEDライトがぶら下がっていて、周りも落ち着いたインテリアで飾られていた。
そんなリビングの奥にはキッチンがあって、桐ヶ谷さんをはじめとした女子チームがたくさんの料理を作っていたようだった。ここに来て、オレはようやく今回の瀬川先生の意図を知った。
「とりあえずこっちはもう少しで完成するから、男子たちはテーブルの準備をお願いね」
「と、いうわけだ。右京くんと南野くんは、買ってきた酒やつまみをテーブルの上にセッティングしよう」
瀬川先生に促されて、オレと右京さんは両手に持っていた買い物袋の中に入っていたお酒やおつまみをテーブルの上へと並べていく。
ちょうど6人で座れそうなほどの木製の長テーブルの上は、あっという間にたくさんの食べ物と飲み物で埋め尽くされていく。そして、台所からは桐ヶ谷さんたちが作った料理が次々と運ばれて来た。
「あの、瀬川先生……ここは?」
「ああ、ずっと何も言わずにすまなかったな。ここは、オレと結衣が一緒に住んでいるマンションなんだ。賃貸ではあるが、最近引っ越してきたばかりでな。2人で住むには広過ぎると思っていたけど、ふと今回のことを思い付いてな。みんな、病院関係者の目を気にして満足に出歩くことが出来ない人たちだろう? 右京くんと南野くん、それに月野さんや吉田さんのことをそれぞれに話して良いものか迷ったが、オレと結衣の独断で話させてもらったんだ。せっかくオレと結衣しか知らない関係だったのに、気を悪くさせたら済まなかった」
「い、いえ。そんなことないです」
「僕は、瀬川先生が信頼している人なら大丈夫だと思います。なので、気にしてないですよ」
図らずも右京さんと月野さんの関係を知ってしまい、オレと真奈美先輩の関係を右京さんたちに知られてしまったが、右京さんの言う通り、瀬川先生たちは信用に値する人たちだと思った。
それに、こんな大勢でパーティーをするなんて久しぶりだったので、オレは素直に楽しもうと思った。
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