プロローグ:8年ぶりの再会

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「きっと、涼介くんは私のことを恨んでいるなと思ってたの。あんな酷い別れ方をしたのだから、涼介くんには恨まれていても仕方がないことだと思ってる」 「そんなこと……ないです」  周りの喧騒とはあまりにも対照的過ぎるお通夜のような雰囲気が、宴会場の一番端のテーブルに広がっていた。既にさっきまで一緒にいた理学療法士の先輩は、ビールを水のように飲みながら他のテーブルの輪に加わっていた。  先輩からの問いかけに、オレはテーブルの下で両手を力強く握りしめる。爪が皮膚に食い込んで痛み刺激を誘発してもなお、オレはその手を緩めることが出来なかった。 「……むしろ、謝らないといけないのはオレの方だと思います。先輩は生徒会長だったし、オレは生徒会長の中でも地味な書記というポジションに過ぎなかった。会長に声をかけてもらって生徒会に入って……そこから先輩のことが好きになりました。先輩もオレのことが好きだって分かったときは、めちゃくちゃ舞い上がっていた気がします。先輩のことをリードすることすら出来なかったのに」 「それは涼介くんのせいじゃないよ。あれは、涼介くんのことを気にかけてあげなかった私の責任。だから、涼介くんが気に病む必要なんかないんだよ」  先輩は優しく諭すように、首を横に振る。8年という月日が流れても、先輩はあのままの優しい先輩のままだった。  高校時代、オレは陸上部に所属していた。先輩はオレより1つ上の学年で、マネージャーをしていた。先輩が生徒会長になったとき、ふと先輩から生徒会に入らないかと声をかけられた。それまでは先輩と話すこともほとんどなかったけれど、元々先輩のことが気になっていたオレは、その提案にオレは2つ返事をして快諾した。  そして、生徒会の仕事をしていくうちに、オレは先輩のことがもっと好きになっていった。見た目の容姿もそうだが、先輩のひたむきに生徒会や陸上部のマネージャーとして取り組む姿勢に惹かれていたのだ。もちろん、先輩は生徒会長として周りから厚い人望を寄せられていたし、マネージャーとしても部員の体調やタイムの変化を記録して、常にベストのコンディションを保てるように配慮してくれていた。  そして……高校2年の冬、オレは先輩に告白された。誰もいなくなった生徒会室で、オレは先輩とキスをした。まさかあの先輩がオレのことを好きだなんて、夢にも思っていなかったからだ。
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