プロローグ:8年ぶりの再会

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「オレはこんな性格だから……先輩のことを笑わせてあげることが出来なかった。いつも先輩に気を遣わせて、自分から何もしなかった。先輩がオレに気持ちを伝えてくれたのに、オレは何も出来なかったんです。だから……先輩が高校を卒業すると同時に、オレたちは別れた」 「私は、涼介くんがすごく優しい人だって分かってたよ。部活も真面目に取り組んでいたし、私は涼介くんのそんなところが好きになった。涼介くんは元からあまり感情を表に出すようなタイプではないと思っていたけど、私も涼介くんのことをちゃんと分かってあげようと思っていなかったのかもしれない。もしかして、私よりも他の子と一緒にいた方が笑ってくれるんじゃないかなって思ったの。だからきっと、私は涼介くんと別れる選択をしたんだと思う」 「あの頃はお互いに子どもだったってことですかね……お互いに舞い上がって、それでそこから先に進もうとしなかったんですかね」  苦笑いを浮かべたオレに、先輩も視線を逸らして苦笑いを浮かべていた。  8年前に付き合っていた先輩とこうしてここで再会したというのは、ただの偶然なのだろうかと思った。もしも8年前に戻れるなら、もう一度戻ってやり直したかった。 「おーっす! 飲んでるから涼介ぇ!!」 「ぐっ……!?」  しんみりとした雰囲気を打ち破ったのは、幹事席で既に酔い潰れていたはずの高橋だった。高橋はビールが入ったグラスを片手に、オレの首へと腕を回してくる。まだ宴会が始まって間もないというのに、高橋はハイペースでビールを飲み続けていた。 「あっ、あなたがあの美人で有名な吉田真奈美さんですね! 俺は高橋真って言います! リハにめちゃくちゃ可愛い人が入って来たって聞きましたけど、噂通りの人っすね!」 「あなたは……涼介くんと一緒の放射線技師の人かしら?」 「はいっ!! この大学病院で一番の腕を持つ放射線技師と言えば、この高橋真ですっ! 俺の手にかかれば、どんな病気でさえも写し出して見せますよ!」 「おい、やめろ。先輩が困ってるだろ。そもそも、オレとお前を一緒にするな。それに、誰が一番の腕だって? 良いからさっさとあっちに行ってろ」 「うぉっ、何だよ南野! せっかく一人で寂しく飲んでるかと思ったのによ! じゃあ吉田さんっ、また後で来ますねっ!」 「えっ、ああ、うん……」  高橋の勢いに圧倒されていたのか、先輩は呆気に取られていたような表情をしていた。  オレがため息を吐いている間に、高橋は次々と色々なテーブルを回っていき、不特定多数の人たちと酒を酌み交わしていた。  
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