プロローグ:8年ぶりの再会

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プロローグ:8年ぶりの再会

 現在の日本における夫婦関係のうち、社内恋愛をきっかけとした割合は約4割に及ぶらしい。つまり、10組の夫婦がいたら4組は社内恋愛から発展しているということになる。  総職員数が2000人から3000人はいるのではないかと思われているうちの大学病院でも、それは例外ではなかった。同じ医療職に携わる者たちが日夜男女の関係を営んでいるという現実が、ここにあった。 「はい、じゃあ次は造影剤が入っての検査になります。少し体が熱くなりますが、異常ではないのでそのままお待ちください」  大学病院の一角に位置している放射線科は、レントゲンやCT、MRIやRIなどの検査を主に行なっている。  CTやMRIは造影剤を使用することにより、より鮮明に画像データを得ることが出来る物であった。副作用として体の熱感といった軽い症状から、アナフィラキシーショックという重篤な副作用まであるため、投与前の問診と実施中の観察が求められている。 「……どうかな? 見た感じの画像は」 「そうですね……詳しくはうちのドクターに読影を頼んでからになると思いますが、今のところ再発の兆候は見られないと思います」 「分かった、ありがとう。読影の結果が出たら、また確認してみるよ」  椅子に座りながら撮影の様子をモニター越しに見守っていたオレの肩越しに、消化器内科の瀬川先生が声をかける。暫定ではあるが、患者の疾患が再発していない可能性の方が高いという話を聞き、先生はゆっくりと扉を開けて退出していった。  CT検査に医師が同席するのは稀なことではあるが、瀬川先生は時間があるときはこうして直接様子を見に来ることが多かった。それだけ患者の様子が気になっているのだろうし、担当している患者や同じ医療スタッフの間でも、瀬川先生の評判は高かった。 「いやいや、いつもあの先生には頭が下がるねぇ。こんなに真面目にここまで出向いて来るドクターなんて、中々いないよなぁ? いくら造影剤を使うからって言ってもよ」 「それだけ患者と向き合っているってことだろ。じゃなかったら、患者から絶大な信頼関係なんか築けるわけがない」  隣の椅子に座っていた同期入社の高橋真が小さくため息を漏らす。それだけ、同じ医療者から見ても、あの人の患者との向き合い方については学ぶべきところが多くあった。
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