■ 洛外 山中

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■ 洛外 山中

「まお様ーっ、そっちのほうにイノシシがー」 「あほーっ、なんでこっちに来させるんや」 ギャーっ 俺は二、三度イノシシにどつかれながら、ようやく木の上に逃れた。 「みなさーん、穴とか開いててもつっついちゃダメですから。イノシシとかクマとかいますから」 「はーい」 俺はおじの手配した洛中や近隣の村の人間を使って山に入った。あるものを集めるためだ。 その一つは葛(つた)で、そこらじゅうの木に巻き付いているやつだ。 これは集めて、絞った汁をひたすら煮詰めると、薄黒い土のようになる。甘味の素で、市場でも高値で取引されるほどで流通量も少ない。したがって人海戦術で調達することにした。 「ばかねー。そんなのお上が満足するくらいの量、充分買えるじゃない」 「それがさー、新嘗祭だろ? 官位をもったやつがたくさん来るらしいんだ。百五十人くらい」 「ばっかじゃないのっ。そんなにできるわけないじゃない」 ちえの御立腹はもっともです。でも叔父にはめられたんです。叔父が最後に、「まかせたぞ」て言いながら続けてなんかブツブツっと言ったのを、俺はあとからキンポに聞いたんだ。いやー、百五十人のまかないなど、大したものだ。えらいえらい、と。へろっとキンポは言いやがった。ちくしょー。 「まあ、しょうがない。あてはないこともない」 「で、あてずっぽうで山の中ってわけね」 「ちえさん、なんでついてきたの」 あてがないわけじゃない。ただ、なかなかそれがないだけなんです。 「あった、あった。ありました」 「なにが」 「これです。いっぱいあります」 「これって、落っこちてる柿の実じゃない」 「そうです」 「ばかじゃないの。柿は干して食べるから甘いの。いい?そのままだと渋くて食べられないの。こんなの腐り止めの原料じゃない」 「たしかに生柿は柿渋の原料(防腐剤)として租税の対象にもなってるけど、ここに落ちているのは甘ーい柿の実なんだよ」 「どうみてもふつうの柿よ」 「食べてごらんよ」 「いやよ、傷ついちゃって、なんかきたないしー。腐ってたらどうすんのよ!」 「いいから食えよごらぁ」 俺は凄んだ。 「ふえーん、やだなー、うえーっ」 「どうよ」 ちえは恐る恐る食べた。なんにしても食い意地は張ってるんだな、こいつ。 「ふぐふぐ」 「どうなんだよ」 「な、なんで?あまーい!超甘いんですけど。なんで落っこちてる渋柿が甘いの?」 「さ、みんな呼んで来て、集めちゃって」 「ちょっと、なんでよ。おしえてよー」 「こら!もう食うな!なくなっちゃうでしょ!」 「ふーん、じゃ教えてよ」 それは後でのお楽しみ!
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