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近所の馬事公苑では子どものための乗馬教室があり、小学生になったあたしとハルマは一緒に通い出した。父親が大学時代に馬術部で活躍していたというハルマは馬を怖がることもなく、あっという間に乗りこなしていった。あたしもそんな彼に追い付こうと必死になって乗馬を学んでいた。
そんなときにあたしはやさしい青い瞳の黒い馬、 クイーンシュバルツと出会った。競馬界を引退した年老いた牝馬は、焦っていたあたしを諭すようにゆっくり走った。淑女のような彼女の動きに、はじめのうちはイラつきもしたが、だんだんと心を通わせることが叶い、中学生になる頃には一番のパートナーになった。
けれど、十四歳の夏。
クイーンシュバルツはあたしが落馬した際の骨折によって安楽死の処置を受けたのだ。
――もしあたしが落馬しなければ、彼女はもうすこし長生きできたはずなのに。
馬の世界では当たり前のことだと、フーカにおおきな怪我がなくてよかったよ、きっとクイーンシュバルツが守ってくれたんだねと周りのおとなやハルマに言われて胸が苦しくなった。反論できない自分が悔しかった。もっと彼女と走りたかった。
そんなあたしに無理に馬に乗らなくてもいいよとおとなたちは言ってくれた。だからその日以来、あたしは乗馬をやめた。
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