第四章:従属する自由

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「はっはっは、それは頼もしい。さて、剣のほうも覚えちまおうぜ」  嬉しいね、できることが増えると。あと、それを褒めてもらえると。  ―――――――――――――――――――――  「5千!」  あれから半年ほど経った。俺は掃除と薪割りの合間の時間のほとんどを、剣の修練と魔法の修得に注ぎ込んだ。  水車と城の再建も無事完了し、その間街は平和だった。 「しかしおまえもなかなかに無茶苦茶だよな。身体が壊れるたびに魔法で回復させながら修練なんてよ」  別に、初めてじゃないから。あと、一時期自分の腕を食べて糊口をしのいでたこともあったから。 「せっかく食客させて頂いているのに、まだまだ未熟ですから。いち早く一人前になりたいんです」 「お兄ちゃん、いまなら木の枝くらいは拳で折れるかもよ!」  茶化すなクソガキ。 「半年で朝に2千、午後に5千だからな。まぁまぁ早いほうだとは思うぜ」 「ふむ、そこでだ」  姫さまが髪をいじりながら現れた。頭で考えや発言をまとめているときの癖だ。 「明朝までに2日分の薪を用意するがよい。絶対にだ」 「2日ぶん、ですか?」 「ふふん、理由はそのときになれば自ずとわかる。もっとも、汝がそれに値するものでなければ、この話もなくなるがな」 「……おい、奉公人。メシのときは呼んでやるから、今のからもう薪割っとけ」  なんだろう、とりあえず薪は割っとかないといけないみたい。  薪割って夕食食べてまた薪割り。量的に夜通しやってやっと終わるくらいの突貫工事。  さらに修練のあとで腕がガクガクする。  でも、やるしかない。 「おい、もう準備しろ。とっとと風呂に入れ」  俺は衛兵さんに起こされた。どうやら気絶していたらしい。 「メイドよ、足りるか?」 「はい、十分です」 「ふむ、では行くとしよう。速やかに準備するがよい」  俺は大急ぎで風呂に入り着替えて馬車に乗った。 「ちなみにどちらへ向かわれてますか?」 「あ? 鍛冶屋に決まってるだろ」 「鍛冶屋、ですか?」 「ちょっとは察しろ」  衛兵さんは、ずっと姫さまの横で険しそうな顔をしていた。 「よかったな、おまえも自分の剣を持たせてもらえるんだ。久しぶりに見るがガンバってるんじゃねえか」  団長さんが、手綱を握りながら嬉しそうにこちらを見る。そういえば、団長さんと顔合わせるのってあれ以来だな。 「あんま言うな、こいつが調子に乗る」 「ふむ、まだ決まったわけではないぞ」  姫さま? 「こやつが本当に日々の修練を血肉に換えきれておったらだ。役立たずに武器は持たせれぬ」  手厳しいな。 「降りるがよい」  鍛冶屋に着いた。姫さまのご実家の近くにあった。 「暫くぶりだな。衛兵用の剣を2振りと、兜を分けてもらえぬか?」 「お易い御用です。兜は安物で構いませんか?」 「ふむ、よいだろう」  なかを見ると同じ両手剣が何本もあった。 「ふふん、我が実家は剣の保ちが悪いのでな。城付きの鍛冶屋が予備を常備しておるのだ」  あの激しい修練なら、剣もすぐ傷むだろうな。 「奉公人よ、あの兜を両断してみせるがよい。格好だけの安物すら割れぬようでは、剣を持たせても無意味であるからな」  俺は左手に剣を持ち、右手を添えて真上に構えた。  一発勝負だ。気合を入れろ。俺は兜から数歩距離をとった。 「キィェェエア!」  全速力で踏み込み、後ろ足で身体をつん止まらせその勢いで腰を落としながら肩甲骨を回し、剣身を兜めがけて全力で叩きつけた。 「アアアア!!」  脇を締めて斬撃の反動をすべて受け止め、全体重で押し潰すように押さえつけた。 「ふむ、こんなものであろうな」 「まずまずだな」  剣はヘルムを半分ほど割り、鼻先と後頭部が入るであろう位置で止まっていた。 「お兄ちゃん、衛兵さんは真っ二つにしてたよね?」  いうなよ。 「ふむ。この兜をもう3点ほどもらおうか」 「ありがとうございます」 「よかったな、奉公人。及第点だってよ」  なんとか認めてはもらえたみたい。 「誉められる点としては、一撃で行動不能とさせれるであろう威力を有していた点、および剣筋に淀みがなかった点だな」 「であるが、まだまだ半人前だ。遅くとも今から半年後、収穫祭までに必ずや修得せよ」  ……姫さまもわかっておられる。備えるべき脅威に。 「わかりました。ところで、この兜はもう処分してもいいですか?」 「ふむ。職人よ、この鉄はもう使えぬか?」 「姫さま、そいつはクズ鉄です。もう材料としても使えませぬ」 「お兄ちゃんは、クズ鉄の兜も割りきれなかったんだね!」  そっか……。俺はこの半年、いろいろ頑張ったんだけどな。  例えば、こんなのとか。 「ボルケーノ!」  火柱が上がり、兜が蒸発した。 「姫さま、これは!? ご次兄さま以外が使ったところを初めて見ましたぞ!」  手段さえ選ばなければ、俺はもう蛮族を仕留めれるよ。 「ふむ。では、剣の方面でも精進するがよい」  俺はやってやる。俺が決めたんだ、貴女の期待に応えてみせるって。
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