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「賢いね、キミは。賢過ぎてつい言葉が難しくなってしまうのか、俺には意味がわからないよ。
だけど、弱者のモノは強者のモノだってことは弱者のキミが強者の俺に俺がよこせっつってるモノを平然とガメたままトンズラを考えてるってことは俺でもわかるからそこは安心してよね」
ふざけるな、僕がいったい何をしたっていうんだ、なんでこんな仕打ちを受けないといけないんだ。
背中を右足で踏まれる感触がふたつ。刺青の輩以外に少なくとも2人はいる。
「賢いね、キミは。ずいぶん大人しくなったじゃないか。理解が早くて助かるよ」
お尻から中に挿し込まれた指が内臓をコリコリと転がすように弄ぶ。気持ち悪い。
「俺の妹は、2回男に犯された。
1回めは妹が7歳のとき。ひとりで遣いにやったらなかなか帰ってこないから探したら路地裏であらぬ姿で見つかった。以来妹が外に出るときは親父が傍について手を握りながらになった」
「2回目は11歳のとき。家の目のまえで事が起こった。
家を出た妹と親父のまえを馬車が遮り、なかから甲冑を着た剣士が降りてきて妹を連れ去ろうとした。
手を握ったまま離さなかった親父の腕は剣で斬り落とされた。
妹は、馬車に乗るからこれ以上はやめてくれ、とその剣士に懇願したよ」
刺青の輩の話に記憶が蘇った。そのお父さんは、片腕を斬り落とされてなお追いすがろうとしていた。
娘は、お父さんに諭すような目を涙ながらに送っていた。
そのお父さんには、衛兵にカネと回復薬を渡させた。
思い出すと同時に股間に血が集まった。ベッドでの年齢不相応の冷めて達観した目つき、どこか慣れきった態度とすでに男を知って破られ穢れていた身体。
当時はハズレを引いてしまったと思っていたが、その理由がわかったいま思い出されると興奮せずにはいられなかった。
「親父が涙ながらに回復薬で切り落とされた腕を治しているとき、お袋にありとあらゆる罵声を浴びせられた。
親父は逆上し治りたての腕でお袋を殴り殺した。
親父はふと我にかえると、再生した右腕を今度は自分で斬り落としたよ」
興奮冷めやらぬ話だ。事態を把握したときの娘の顔が見てみたい。
「賢いね、キミは。俺たちのためにビンビンにしてくれたんだろ? キミが気持ち良さそうじゃないと俺たちが嫌がらせしてるみたいだもんな」
だまれ。お前の指なんかじゃない、おまえの妹に興奮してるんだ。そんなそそる話ってそうそうないぞ。
「以降親父は抜け殻のようになっちまった。
妹は、壊れたように男を求めるようになったよ。『あたしが汚れてるのは自分のせいで、けしてお父さんのせいじゃないよ』って。
せっかくだから、俺は妹と寝た男どもからカネを取った。その後妹には、男と寝るたびにカネを取らさせた。家では俺に対して誰もなにも言えなくなったいま、そのカネで俺は遊び放題だよ」
いますぐ僕のカネを返せ、そのカネでおまえの妹を買わせろ。抱かせろ。犯させろ。おまえはカネに笑顔のままでいい。
おまえの妹は、3度目の絶望を味わうべきなんだ。
お父さまにも見せたいな、娘さんの艶姿。
身に覚えがあるかつての絶望、その向こう側のさらなる絶望。
奈落の底のさらに底、堕ちゆく姿を見てみたい。
僕の怒張した先端は、それを想像しただけで涎を垂らした。
「俺は強者だ、強い生き物なんだ。カネと権力にすべてを壊された親父なんかより、どっかの大発明家とやらのそこら中に顔を知られたボンボンなんかよりよっぽどね」
怒張しきったなかで後ろから刺激され続けた僕のそれは先端から欲望を吐き出した。恥辱感が全身を襲った。
「賢いね、キミは。どうやら後ろにも隠してなかったみたいだし、前からもそんだけ出しといてカネは全くだ。
もう隠せる場所はひとつしかないってわかりやすく教えてくれるんだからね」
背中を踏みつけ続けていた足がどけられると、今度は腹を蹴り上げられた。僕は腹を押さえながらもだえ苦しんだ。
「賢いね、キミは。このまま腹を蹴られ続けたらせっかくガメようとしたカネを吐き出してしまうもんね」
どうせ無いってわかってて言ってんだろ。痛めつけながら悦に浸りたいだけだろ。
「炎の精霊イフリートよその纏いし炎にて彼の者を焼き払いたまえ……ファイア!」
必死の思いで攻撃魔法を長髪の輩に向け唱えた。
長髪の輩の全身に火がついた。
「何してくれやがんじゃテメェ!」
坊主頭の輩に殴り飛ばされた。単体魔法では他に対して隙だらけになった。
次いで刺青の輩、長髪の輩が足蹴にしてきた。初歩的な攻撃魔法では着ている服のところどころに焦げ目を作る程度が関の山だった。
「賢いね、キミは。攻撃魔法が使えるんだね。
でもなぜかただ足蹴にされているだけのキミのほうが効いてそうだよね」
それからは3本の右足が全身のあらゆる場所に飛んできた。
腹、胸、口元、局部、腕、足、目、耳、喉と次々絶え間なく蹴られていった。
肉が爆ぜる感触、骨が折れる感触、健が切れる感触、玉が潰れる感触、関節が壊れる感触、目玉が飛び出す感触と実に不愉快な感触に襲われた。
もう痛がることを恐怖することを生を求めることを死を拒むことを忘れかけたところに踏みつけられた腹が血反吐を吐き出させた。
「賢いね、キミは。本当にもうなにも出せないって、わかりやすく教えてくれるもんね。
もしなにか出せたら、とっくに出してただろうからね。
バイバイ、賢いなにもできないオニーサン」
「偉大なる霊樹ユグドラシルよ……どうかその力にて汝を慈しみたまえ……キュアオール」
僕はかろうじて残った片目で輩たちがその場から立ち去るのを視界から姿を消すまで見送ったあと、最後の力を振り絞るようにして回復魔法を唱え身体を回復させた。
「どうだ、僕は賢いだろ、回復魔法が使えるんだから」
精一杯強がろうとして口から出した言葉を耳にして、僕は恥辱感と屈辱感に嗚咽した。
―― 序章:旅立ちの日 the end ――
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