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流れに逆らいながらものすごい速さで泳いでいたら、頭のなかがぐちゃぐちゃになった。
──だから、ぼくから離れるなって言ったのに。
どこだよ。どこで泳いでるんだよ。早く帰ってきな。ママもパパも、心配して泣いてるぞ。早く帰ってきな。
ぼくにはいないパパとママを、悲しませてるんだぞ。きみが帰っていく夏の終わり、ぼくがどんなにさびしくて、うらやましかったか。ぼくも連れていってほしかった。ずっときみと一緒にいたかった。
「──!!」
きみの名前を叫ぶ。見上げた水面に向かって。月の光が、揺れる水面をきらめかせている。ぼくのうろこにも光があたり、薄青い水底で虹色にきらめく。ぼくの涙が揺らめいている。ぼくはそのとたん、生まれてはじめて呼吸ができなくなった。
喉を押さえた両手に、硬くざらついた感触。うろこが異様にささくれ立っている。全身が痺れる。脚が痛い。そういえば、ぼくは半分人間だった。
肺がちりちりと痛み、限界を訴えてくる。ぼくは抵抗してさらに深く潜った。圧迫感と脚の激痛に吐きそうになりながら、月の光も届かない海底に飛び込んでいく。
──あの子を見つけられるのは、ぼくだけだ。
岩のシルエット。魚影。落としものらしき影を見つけるたび、船じゃないか、と思う。船であってほしい。船であってほしくない。
脚がばらけた。ぼくは裸の人間になった。肌がちりちりと、焼けるように熱い。
身体は意に反して少し浮き上がり、ぼくの視界に月の光を届けてくれた。
──あれ。
きらりと、光が見えた。
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