第六章 闇を裏切る

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 ヴァイスを伴い、銀鉄の島の、ネイの故郷である北の村の上の崖から地下墓所へと向かう。 「何故、私をここに?」  明らかに怒りを含んだヴァイスの声に、ラッセは下を向いた。ラッセ自身、何故ヴァイスをこの場所へ、ヴァイス自身が破壊した廃墟へと連れて行こうと思ったのか、分からない。心に渦巻く戸惑いのままに、ラッセはネイの血が染み出る場所に座り、僅かに温かいネイの血にその手を翳した。 「こんなところに私を連れてきて、何をさせたい?」  肩を怒らせ、くるりとラッセに背を向けたヴァイスに、小さく微笑む。 「『許す』って、難しいね」  かつて、保護者を殺したならず者達を憎み、その結果返り討ちにされた子供ギードを葬った後にネイが発した、寂しげな声を、ラッセは不意に思い出した。もしかしたら、ネイ自身も、地下墓所を破壊したヴァイスや、友人や主君を殺した全ての人々を、未だ許してはいないのだろうか? 悲しい問いに、ラッセはそっと首を横に振った。その時。 「そんなことはないよ」  明るく、そして優しい声が、ラッセの背後に響く。 「ネイ?」  振り向いても、もちろん、ネイの姿は何処にも、なかった。そして。再びしゃがみ込み、異変に気付く。破壊された地下墓所を濡らしていた、ネイの血が、何処にも見えない。 「ああ」  冷たく、乾いてしまった地面に、静かに膝を突く。涙が、止めど無く、ラッセの頬を流れ落ちた。 「ラッセ?」  そのラッセの、ぼやけた視界に、ヴァイスの黄金の髪が映る。 「な、何だ? 何故、急に、泣く?」  戸惑いしかないヴァイスの声を、ラッセは虚ろに、聞いていた。  それから、二十年余りの後。  教王を兼務する皇王ユリウスの統治の許で混乱の極みにあった皇国は、『銀鉄の国』の反乱を指揮した若き将軍によって滅ぼされることになる。  しかしそれは、別の物語。
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