邪智か暴虐か

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「それよりもルシファス、あなたにひとつ完璧な計画を依頼したい」 「ほう。暴虐の(きみ)が邪智のやもめに頼み事か」 「真剣な話ですよ、兄弟」 「して何が望みかな、弟よ」 「社交界の頂点に食い込みたい」  その言葉だけで、ルシファスにはリジナルドの求めるものがわかった。  上流階級の社交界というのはいくつかの層がある。王都ロレーヌの頂点に君臨する王と王妃を取り巻く貴族たちの社交界、そして王弟が取り仕切る社交界──この二つが頂点だ。  その下には王の配下としての役割を形骸的に担う貴族たち──ルシファスが主に顔を出している層。その下に中・下級貴族と、専門職や美男美女のための社交界が無数ある。  なんの爵位も持たないリジナルドは、王と交流できる社交界ピラミッドの最上位に食い込みたいと、そのための計画をルシファスに求めてきたのだった。  これには邪智において百戦錬磨のルシファスも眉根をひそめた。 「王に気に入られてどうするつもりだ?」 「目指すのは王弟の社交界だ」 「……戦争か?」  ロレーヌの王弟は隣国への侵攻と蹂躙を望む一派だ。貴族たちの懸念事項は、ルシファスの考案した完全犯罪を除けば、この王政下で戦争が起こるのではないかという一点で持ちきりだ。 「王弟殿下お抱えの諜報犯罪組織にでもなるつもりか? まあ構わんがな。しかしは何事も程度だ。願わくば、経済活動には知性と品性があるほうがいい」 「今のわたしの地位では到底、貴族的な地位を要求される王弟の社交界には届かない。わたしを裏切っていつの間にか男爵家に取り入り、極秘に養子になったかと思えば三十半ばで若いやもめになって、社交界の意見番として重用されているあなたとは違ってね」  胸中に苦味が広がった。  ルシファスは何度、この裏切りという言葉に縛り付けられて来たかわからない。
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