罪深き所業

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 一ヶ月後、よそ行きの紳士服に身を包んだノリスが、ルシファス卿の隠れ家に姿を見せた。 「先の計画の進めさせておりますが、担当からの仕入れが整ったとのご連絡があり、直接ご覧に入れたいとのことです」 「そうか」  ルシファスの返答は一見興味のないふうであった。 「ではこの目で直接確かめることにしよう」 「お召し替えのお手伝いを……」 「使用人にでもなったつもりか?」  ノリスを制し、着替えのために寝室に引っ込んだルシファスは、紳士にはあまりに不釣り合いな粗末で地味な服を着て、手袋と帽子とともに再びノリスの前に現れた。 「馬車がお待ちです、マイ・ロード」  ノリスの言に対し、ルシファスは顎を引くにとどめ、わざわざ行き先を尋ねなかった。情報を知らないでいることもまた、犯罪コンサルタントが影なく暗躍するための秘訣の一つなのだ。  馬車に乗り込み、目的地まで揺られること数時間。ルシファス卿とノリスは屋敷にたどり着いた。広さはあれど、経年劣化によって粗末さの拭えない外観をした施設のように見える。  ルシファスは建物を見上げても表情一つ動かさなかったが、ノリスは主人の顔色を伺いながら耳打ちをした。 「担当者曰く、連れてきた子供はみな身寄りがなく、孤児院を装っているとかで」  孤児院、という単語にルシファスの眉が痙攣のような動きをみせた。 「では我々は〝里親〟というわけだ。それなら私がおまえの従僕に扮するのではなく、おまえを女装させて夫婦を装うべきだったかな」 「ご命令とあらば、今後はそのように」 「ふん。まっぴらだな」  ノリスの先導で屋敷の中に入った。辺りは静まり返っていて、子供たちの声はおろか、物音一つしない。  二人は施設付きの使用人の案内で応接間へ入った。ノリスは居心地の悪さを悟られないよう、自然な所作で椅子に座った。ルシファスはその(かたわら)に立った。 「あまりにも静かすぎます。部屋が防音されているわけではなさそうですが」  ルシファス卿はあくまで使用人然としていて、ノリスの静かな疑問に答えることななかった。
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