罪深き所業

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 使用人が引っ込んでから間も無く、ヴァン・ヴェルダンという男が現れた。ノリスが原石集めを任せ、孤児を集めてきた裏社会でも腕利きの斡旋屋である。 「お待ちしておりました」  弾むような声でノリスを歓迎した人買いは、ルシファス卿を見たとたん怪訝そうな顔つきをした。 「極秘裏にとおっしゃっていたので、お一人でいらっしゃるものかと思っておりましたが……」 「私の従僕だ。さてヴェルダン、〝私の主人〟はおまえの人買いとしての手腕にたいそう期待しておられる」 「ええ、ええ。花の(かんばせ)、陶器の指……お望み通り、まだ人の手に触れず人の味を知らぬ原石たちを、腕によりをかけて集めてまいりました。きっとお眼鏡に叶うかと」 「失望させてくれるなよ」  ノリスが一言添えただけでヴェルダンは緊張から姿勢を正し、手に持っていた仰々しい装丁の書類を、恭しく差し出した。 「仕入れた原石の目録でございます。下は六から、上は十二まで、どれでもお好きなものをご指名いただければと存じます」  ノリスが手に持った目録を広げると、ヴェルダンが腕によりをかけて斡旋してきた、可憐な男児のプロフィールが数々あった。確かにみな、顔立ちこそ悪くはない。  男児の写真の下には、身元を親族の誰もが顧みることはないという担保や、どのような美しさがあるだとか、髪や目の色だとか、仔細な情報が延々書き連ねられている。  だがノリスは満足どころか、冷たい面持ちのまま顔を上げた。 「このような目録などなくとも……孤児院を回って直接子供らを見たいのだが?」 「ええ、それはもう」  ノリスの行動や質問は、人買いの想定内だったようだ。手揉み付きの笑顔とともに打てば響く返事をする。 「ですから、目録からご指名くだされば、一人一人直接この部屋に連れて来させようかと思うておりましたが」
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