罪深き所業

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 ノリスは音を立てて目録を閉じ、掲げ、ヴェルダンを睨みつけた。 「このような代物は、流出した時に犯罪の証拠となりうる。〝私の主人〟は時間を無為にすることを激しく忌避なさるおかただ。それとも、施設を案内できない理由でもあるのか?」  ノリスの凛とした目がすうっと細められた。 「ヴェルダン、〝私の主人〟はいつでも、おまえの企みを何もかも見ているぞ」 「企み? 滅相もない」 「では命令通りにしたまえ」 「しかし、見ての通りここはみすぼらしい孤児院。あなた様のような高貴なおかたがお越しになるには本来汚らしいところでして──」 「時間の無駄だな」  ルシファスが、部屋に入って初めて唐突に声を上げた。  低く腹の底に響くバリトンにヴェルダンは一瞬びくりと震えたが、音源がノリスのそばに控える使用人から発せられたと気づくや否や、ルシファスを目で蔑んだ。  ルシファスは視線を受け流し、ノリスの前に歩み出て腰を折ってみせる。 「彼はあなた様のご希望に沿う気はなかろうかと存じます。他を当たられては? 暇乞(いとまご)いを」 「いえいえいえ」  帰るそぶりを見せた客に、ヴェルダンは下卑た笑みを貼りつけて制止した。ノリスのバックにいる〝主人〟にここで見捨てられることは、二度と仕事が回ってこないことを意味するからだ。 「遠いところをお疲れでしょう!」 「あなたにご主人様を引き止める権利があるとでも?」 「おまえとはしゃべっていない、卑しい使用人が。立場をわきまえろ、恥知らず!」 「卑しい! 左様でございますか」  ルシファスはこの状況を心底楽しんでいた。自分の正体を知られず蔑まれることは、逆説的に相手の頭の悪さを露呈してひどく愉快だ。裕福な階級は使用人など見向きもしない。  だが同時に、居心地の悪さも感じた。ここは先ほどから何やら妙だ。静まり返った孤児院、悪事の証拠になりかねない目録を作る人買い、そして客の暇乞いを許さぬ強引さ。  ──罠か? 「わたくしが卑しいと仰せになられるのなら、その少年たちがいるという汚らわしい場所に伺っても文句はおっしゃりますまい?」 「それがいい、おまえが代わりに行け」ノリスが援護をした。「〝私の主人〟のおめがねに叶う原石を、おまえであれば見極められるはずだ。よいだろうな、ヴェルダン?」  人買いは仮面のごとき笑みをしたまま、手を揉んだ。 「そう仰せでしたら、もちろんでございます」
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