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ルシファスはまるでヴェルダンなどいないかのように、ノリスへ顎をしゃくった。
「片腕は外しておいたほうがいいな。二度とナイフで人を殺せないようにしてやれ」
ノリスは瞬時に主人の命令を実行した。ヴェルダンの片腕を目にも留まらぬ速さで掴み、外す。骨の外れる音がした。
「がぁああああっ!」
「実感してのとおり、おまえを押さえつけているその若者は少々手先が器用でな。ノリスは扉の錠も針金一つで開けられる」
ノリスはヴェルダンの無事なほうの腕を掴み、背中で捻りあげた。そのまま背後へからナイフを男の喉元に突きつける。
「頚動脈にはせいぜい気をつけたまえ」
絶叫の名残のような荒い吐息をするヴェルダンへ、ルシファスは紳士的で鷹揚な振る舞いをしながら顔を近づけた。
「色々と興味深いな。おまえはどうも私の名前を知っているとみた。そして、殺すつもりだったらしい。だが殺気を放ちすぎたな」
凶暴な顔のままヴェルダンは相手を睨みつけ、だが言葉は何も口にしない。
「訊きたいことは山ほどあるが……取り急ぎ、この男によれば地下に子供たちはいないらしい。情報を吐かせるにはうってつけではないか? ──ノリス」
一声かけられた腹心は、ヴェルダンの首元へ刃先を押し付ける力を強めた。
ルシファスは、そのまま地下へ進むようにと階下へ顎をしゃくる。
ヴェルダンとノリスが歩き始めた。ルシファスは両手の指を背中で組みながら、二人について行く。
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