罪深き所業

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「なるほど。確かにそうかも知れん。私が選ばなかった孤児らに里親を見つけてやるため、そのまま本物の孤児院を経営してもよいかも知れない──おまえに血の一滴でもあるのならな。それとも、おまえの悪事に子供たちを加担させてもよいかも知れない。いやむしろそのつもりだったのだろう? しかしこの牢屋を見るに、ろくなことをさせるつもりはなかったのだろうな?」  ルシファスはナイフを男のすねに突き立てたままにして、蝋燭が三本ある燭台を手に取る。 「おまえは人を買う立場でありながら、犯罪というものを何一つ理解していない。犯罪を遂行する上での大敵はなんだと思う、え? 『苦痛』と『恐怖』からくる憎悪なのだ。おまえがこの牢屋でやろうとしていることは、まさに苦痛と恐怖を植え付けることだろうな。  折檻を受けながら、おまえの思う悪事に無理やり加担させられ、苦痛から必死に逃げ出したいと願う少年どものうち誰か一人でも警察に駆け込めば、おまえは破滅だぞ」  燭台から蝋燭を二本抜き取った。燭台は元の場所に戻す。 「犯罪コンサルタントとして私が子供を犯罪に使うとしたら──そう睨まず年長者のおせっかいとして聞いておきなさい──まずすべきは子供たちに、大人への奉仕こそが、犯罪を恋人にすることこそが至上の悦びであると刷り込み、洗脳することだ。かりそめの希望を与え続けることだ。そうなれば誰がここからから逃げていく?」  片方の蝋燭の火を、もう片方の蝋燭の首に近づけ、蝋が溶け出すのを待った。 「最も口の堅い犯罪者は犯罪を伴侶にする。我々の仕事は暴力ではない。罪と結婚させる仲人となることだ。なのにおまえときたら、使えもしない犯罪者のなりそこないを何十人と集めていったい何をしようとしていたのだ?」  溶けた蝋のしたたる蝋燭を、先ほど深々と刺したヴェルダンのすねの傷口に持っていった。
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