罪深き所業

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 ヴェルダンはノリスの目を逃れたほんの隙を突いて手を払い、左手をポケットに手を突っ込んだかと思うと、そのまま口を押さえる仕草をした。 「ノリスッ!」  ルシファスが叫んでヴェルダンの手を口からどけた時には、遅かった。手の中にあった小瓶が床に落ち、転がったかと思うと、ヴェルダンは口から血を吐いた。 「ごっ」  吐き出した血はルシファスとノリスの胸元にも飛んだ。卿は服にかかった飛沫を拭うことも忘れ、事切れた男をただ、凝視している。 「死んだ」  ルシファスは腹心を見た。  ノリスは自分の失態が招いた事態に、肌が真っ白になるまで顔から血の気が失せていた。ルシファスの正体を知っている何者かへの手がかりが、消えた。 「申し訳──」  ビシャリと音がした。卿は手の甲で思い切り、ノリスの頬を打ち付けた。 「やってくれたな」  ただではすまない。ノリスは、もう一度来る平手を受けるために目を固く閉じた。  だがルシファスは二度目の平手を打ち付けられなかった。目眩がし始めた。瞼を閉じて強く視界を遮断した。息がかすかに上がっている。  ノリスは恐る恐る目を開けた。 「マイ・ロード……?」 「ノリス、わかっているな」  ルシファスは唐突に、いつもと同じ抑揚で腹心に唱えた。 「おそらく集められた孤児たちはこの部屋のどこかに閉じ込められているはずだ。徹底的に探せ」 「かしこまりました。チャンスをいただき、至極──」 「口ではなく足を動かせ。虫けらの死体処理はその後だ」  うめきに近い声で、卿がノリスの言葉を遮った。ノリスは口を閉ざし、階段を駆け上がる。  ルシファスの目の前には、ヴェルダンが壁に屍を晒していた。
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