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一音、長く澄んだ、鈴の音を引き伸ばしたような美しい単音が響いた。
その一音はゆっくりと音階をつけ、ソプラノの声が、癇癪玉のような部屋の中に異質なほど響き渡ったのである。
旋律に誰もが息を止めた。
パニックを起こしかけていた少年たちも。ただならぬ事態に困惑しているノリスも。そして、誰よりも自分らしい自分を制御できないルシファスでさえも。足を止め、音に耳をすませた。
旋律は、国教の賛美歌の一つだった。
歌声は美しく細緻であるばかりではなく、壁に反射してどこから聞こえてくるかも分かりづらく、神秘性を際立たせていた。
歌が中盤に差し掛かった頃には、誰もがその声に落ち着きを取り戻していた。
ルシファス卿は止めていた足を再び動かし、声のしたほうへ歩き出した。ノリスが我に返って卿の背中を追いかけ、二人が歌声の主へたどり着いた時、曲が終わり、旋律は途切れた。
そしてルシファス卿は、一人の少年を見つけた。
その少年は窓際にぽつりと腰掛けていた。振り返った時、碧眼と目が合った。澄んだ水面の瞳だった。
少年は美しかった。
ただの金髪碧眼ならどこにでもいるし、ルシファスはそのような美少年を何百人も見てきた。言うなれば、天使にすら何人も会ってきたのだ。
だが少年は、孤児であり、ヴェルダンに訳も分からぬまま連れてこられ、こうした劣悪な境遇の中にいて、絵に描いたような邪気のない美貌だ。先の子供達のように荒んでいなければおかしいのに、その顔から一度も純真を失ったことがないような表情だった。
ルシファス卿は、震え上がった。
あの目はよくない。
「この状況で……」
この状況で光を持つ瞳は、死んでいるのと同じだ。
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