恋のはじまり

10/203
前へ
/206ページ
次へ
  (疑いすぎ。…考え過ぎちゃ…ダメだ)  今更、良太さんと兄さんの間に何かなんて起こるはずないんだから。  第一、響の告白を受け入れた良太とベットを共にする関係になってから今まで、後ろ向きな想像をしてしまうような怪しい雰囲気など、良太と兄の二人の間に一切なかったじゃないか。  四六時中良太のことを考え、常にその傍にいて見ているのだから、変に勘繰ったり、危惧する必要など、ないはずなのだ。  年を重ねるにつれ、少しずつだが大人になっていっていると自覚しているように、既に成人を越えた良太だって、傷つき、身動き一つできなかった未熟な青年のままでいるはずがない。  今だにあの時、涙していた本当の理由を響に明かしてくれなくとも、彼の隣にいていいのは、響しか――いないのだから。 「またスネたのか?」  キイ、という音と共に浴室へ入ってきた良太は、頭からシャワーを浴びていた響を見て、からかうような声をかけてくる。  良太の声に反応して頭上からシャワーを外した響は、振り返ると同時に良太を睨みつけた。 「そうむくれるなよ」  何も答えず良太に背中を向けた響は、シャワーを少しだけ絞り、水の勢いを弱めた。  そんな響の体を後ろから抱きしめ、顎を捉えて上向かせると、有無を言わさず口づける。  互いの唇を貪るように口づけながら、正面から向き合った二人は互いの体をきつく抱きしめ、絡み合う。  頭の中が言葉にできない感情で満たされ、じんわりと沸き上がる欲望に体が追い込まれて行く。  ―――それだけで、響の心は癒される。  愛した人と抱き合うことが――響にとって、疑惑に取り憑かれた心を癒す一番の特効薬となったのだった。 .
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加