恋のはじまり

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  (―――…誰…?)  けだるい朝。  けれど心地良い、『幸せ』の実感がある目覚めだった。  その目覚めのきっかけになったのは、良太が誰かと楽しげに話している声で――… 「!」  良太が話している相手は、響の兄・光だと瞬時に気がつき、覚醒した。  生まれてから十六年間、共に暮らしてきた年月が長いのだ、兄の声を他の誰かと間違えるはずがない。  なんでいんの!? という内心のツッコミを繰り返し胸の内で繰り返しながら、脱ぎ散らかしたままの服に手を伸ばし、慌てて着替えを済ましてリビングへと向かう。  バタバタと慌ただしい足音に気がついて顔を上げた光と、引き寄せられるように目が合う。 「今起きたのか?」  自分と良く似た面差しを優しく緩ませて、光は静かに微笑む。 「寝汚いのはお前に似たのかもな」  ちらり、と、背中越しに響へ視線を向けた良太が可笑しそうにそう言うと、良太の正面に座る光も微苦笑する。 「悪かったな、兄弟して迷惑かけて」 「別に! おれとお前の仲だろ、今更、今更!」 (…なんだよ)  自分を置き去りにして、二人は楽しそうに笑っている。  …いつもそうだ。 良太は今でも光に気持ちを残したままで、だから、今だにこうして光を目の前にすると、もうヒカルとは何もない、と言う良太の言葉がまるで嘘に感じるほど、二人だけの世界をつくって響などはじめから存在していないというように、その世界に入れてもらえなくなる。  きっと良太も光も、そんな風には思っていないのだろうが…繊細な心の機微を持つ響は、抱いた自分の思いに傷つき、いつも胸を痛めていた。 「響」 「!」  ぼうっと 立ち尽くしたままの響に気づいた光が呼び掛けると、その細くて頼りなげな肩がビクリ! と震えた。 .
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