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「どうした?」
ぼんやりとした様子の響を特別訝しむこともなく、光は不思議そうな声色で問い掛けてくる。
自分の背後で体を固くして立ち竦む響を見て小さく舌打ちをした良太は、その内心とは裏腹な笑顔を作ると、
「座れよ」
と言って振り仰いで見た響の腕を掴み、強引に引き寄せ自分の隣に座らせた。
「起きたてで、まだボケてるんじゃないのか?」
二人掛けのソファーに座らせた響の頭を一撫でした良太は、嫉妬に歪んだ顔付きをしている響の表情を変えさせる。
(いくら光がニブい奴だからって)
にこりともせず、睨み付けるように見られたら、不審がられるかもしれない。
響がそんな態度をとってしまう原因が自分にあるということを棚に上げた良太は、内心で
『だから子供だっていうんだよ』
と苦い思いを零した。
「僕に似たなら仕方ないよ。 低血圧だろうし」
「フザけんなよ、マッチョのお前が低血圧だって?」
「低血圧にマッチョは関係ないよ」と言いながら、顔に似合わないがっちりとした体を上下に揺らして光は笑う。
顔付きは兄弟の響と同じベビーフェイスなのに、首から下はまるで重量挙げの選手のようにムキムキボディーの光。
顔と体のバランスがマッチしていないように思える光が、白い歯をキラリと輝かせて笑う。
「いくら体を鍛えてたって、こればっかりは変わらないんだぞ?」
「自慢になってないって」
良太が全開の笑顔で言って返すと、光も屈託のない笑顔で応える。
そんな二人だけの会話を楽しむ光と良太をただ見ていた響の胸が、込み上げてくる良太に対する恋情で切なく締まり、悲鳴を上げたくなる。
(オレだけを見てよッ!)
良太の笑顔。 光の笑みが掻き消えるその一言が…響の口から飛び出すことはなかった。
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