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六月はじめの三日は、アクシデントのせいで敬遠している光と顔を合わせるハメになったものの、その後は蜜月と呼べるほどに朝も夜もなく、良太と枕を共にしてばかりいた。
それなのに。
その次の週からは良太の仕事が忙しくなり、休日出勤を理由に会えない日々が続いていた。
(いつも一緒にいたい、なんて、オトメちっくなことは言わないけどさ)
下駄箱のすぐ脇に敷かれた簀の子の上に派手な音を立てて、外履きのシューズが落ちる。
急激な落下でその痛みを訴えるかのような音を出したシューズを冷酷な眼差しで見下ろした響は、心ここに非ずといった体でため息を零した。
平日はお互いの日常をやり繰りするのに精一杯で、思うように会えないのも仕方のないことだと諦めていた。
だからこそ毎週一回だけでも会えないかとささやかに願っている響だったが、今年に入ってから仕事の内容が変わってしまった良太となかなか会えなくなっていて、もっと深い所で繋がっていたいと願う響をがっかりさせていた。
「デンワくらい、してくれたって…いーんじゃない?」
下駄箱から無造作に出したスニーカーが簀の子の上に落ちたのをぼんやりと見ていた響はそう独りごちると、爪先で簀の子の上からスニーカーを蹴落とす。
(いっつもそう)
電話をかけるのもいつも響からで、良太から電話がかかってきたことなど、今まで数回ほどしかない。
しかも響からする電話も、良太が指定した時間内でなければでてもらえず、ずっと不満に思っていた。
(こっちから送るメールにだってさ)
毎日良太に送っているメールにだって、まともな返信が返ってくるのは五回に一回くらい。
その一回だって送ったメールに対応した内容じゃないものが多くて…愛が足りないのかなぁ…などと、しおらしく悩んでみたりもした。
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