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そうやって躊躇う気持ちを反映したかのように、今日送るつもりで作成したメールを、まだ良太に送信できていなかった。
躊躇うくらいなら、新しいメッセージを書こうかとも思った。
でも、今考えている思いを作ろうとすると、その文面が恨み言ばかりになりそうで、新しいメールを書くのは止めよう…と、焦れる自分に言い聞かせた。
「うわっつ!」
夕方とはいえ、夏が近づいている証拠のように、照りつける日差しは刺すように暑くて目に痛い。
そんな日差しに射抜かれたせいで、一瞬でだれてしまった響を、誰かが背後から呼び止めた。
「立花!」
クラスメートの声に反応してその場に足を止めた響は、ゆっくりとした動作で振り返る。
「…何?」
「今帰るトコだろ? ちょっと付き合えよ」
「はぁ? なんで」
「先週借りたリーダーのノートさ、部室にあんだよ。 明日、授業あるだろ?」
「…あ~…」
噎せ返るほどの湿気と日差しに、思わず「明日でいいよ」と言いたくなったが、出席番号順で明日は響が指される番、しかも一時間目に授業がある上に、部室の鍵は朝練の時間帯は開けられない決まりになっている。
リーダーを教える女教師はスパルタだから、それに備えて設問を完成させ準備万端なのに、ノートが手元にないせいで痛い目に遭うのは割に合わない。
それに、急いで帰ったって…良太に会えない。
それが分かっていても、寄り道にしかならないイレギュラーな出来事に、響は口を尖らせて不満を言わずにはいられなかった。
「そーいうのはさ~、早く返せよなー」
「あしたお前に当たる日だって思い出しただけでもよしとしろよ! …行くべ行くべ!」
陸上部で揃えたジャージを着て、真っ黒な影が白い歯を輝かせて笑っているようにしか見えないクラスメートの悪気のない態度に、怒る気も失せる。
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