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しかしそんな響の言葉を真剣な態度で「違うって!」と否定した少年は、真面目な顔をして響の顔を覗き込んだ。
「立花ってさ、いっつも帰り早いだろ? 塾とかどっかに通ってて、部活とかしてらんねーからやんねーのかなって思ってさ」
「塾ゥ~? …行ってるように見えんのかな」
対学校仕様のふてぶてしい態度を見せる響の少し前を歩いていた少年が、そんな響の言葉に反応して振り返ったかと思うと、ニカッと笑って事もなく言った。
「だって立花、頭いいじゃん」
テニス部が練習しているコートの脇を横切りながら、響は少年の言葉に苦笑する。
(だって、いい成績とって良太さんに誉められたいんだもん)
クラスメートにつられて、思わず「だって」と呟きながら、漏れた笑みを隠す。
「予習だってバッチリだしさ~」
「それは」と響が言い返そうとしたその時、一際賑やかな歓声が聞こえてきて、無意識に声のする方へと視線を向ける。
もうすぐ通り掛かるプールサイドから、その歓声は聞こえてきているようだ。
「今日はプール解禁だったな。 いーな~、水泳部!」
この暑さでは、舞い散る水しぶきを見ているだけでも涼しさを感じることができる。
「ほんと」
羨ましげな声を上げた少年に同調して頷きながら、プールに向けていた視線を逸らして空を見上げる。
プールの水と戯れる男子や女子の姿を見ていたら、兄・光のことを思い出してしまった。
(あ、気分悪)
良太の傍にいる限り、何かと自分の中で兄と己れを比較せずにはいられない響は、天地がひっくり返ったとしても叶うはずがないと思っている存在が脳裏を掠めただけで、気分を害す。
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