恋のはじまり

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   響に覆いかぶさるように落ちて来た黒い影に驚いて身を引くと、響の目の前にその男が舞い降りた。  金網の頂点から地面までは三メートル近い高さがあったのに、その高低差をものともせず裸足で砂地に飛び降りた彼は、びっくりしている響たちを見て前髪を掻き上げ、輝いて見える白い歯を零して笑いかけた。 「ごめんな、うちのバカ部長のせいでずぶ濡れにして。 これ使えよ」  見れば、長身で女子に受けそうな顔とスタイルを持つ彼自身も、身につけたワイシャツが素肌に張り付くほどずぶ濡れになっている。  自分たちと同じように頭の先から爪の先まで濡れながらも、夏を連想させるほど真っ黒に日焼けした肌によく似合う、爽やかな笑顔を見せる彼から真っ白なタオルを受け取り、響は軽く頭を下げて 「ありがとうございます」  と、とりあえず礼を言った。 「さっすがタイジくん、やっるぅ~!」 「ハダシで痛くない?」  競泳用の水着を着た女子たちに声をかけられた「たいじ」と彼女たちに呼ばれた彼は、ふと顔つきを変えて上半身を捻ると、 「ヘーキ!」  と呼びかけに応えて手を振った。 (先輩、かな)  自分たちと並び立つと、際立って見えるほどの長身の彼を見上げて、響は内心で呟く。  半袖からのぞく彼の二の腕は、大きな半円を描く唇が印象的な顔と同じくらいに焼けていて、動くたびに目を見張るほどの筋肉が浮かび上がる。  茶色く脱色された長髪が軽薄そうな印象があってやや気になるが、水に濡れて透けたワイシャツ越しに見える厚い胸板や割れている腹筋は焼けた肌にとても合っていて、常に笑顔で自信に満ちた態度でいる彼にとても似合い、響たちと同じ高校生とは思えないセクシーさを兼ね備えていた。 .
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