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「って、オレってもしかして男イケイケ?」
「やーだぁ! タイジくんが言ったら本気ッぽくって、あっやし~い!」
来た時と同じように金網に捕まり、身軽な動きで金網を登り詰めプールサイドに着地した彼に、キャラキャラと笑い合ながら女子部員たちが群がり、黄色い声を上げる。
その声に慣れたいつもの調子で合わせながら、ほかの男子部員たちの羨望の眼差しを受け流しつつ、女の子たちを連れ歩く。
傍を歩く女子全員の視線を集めながらも、当分の間あの子のことを忘れられないな、と太司が思っていた、その時。
一方の響は、クラスメートからノートを受け取りながら、
(あんなヤツ、とっとと忘れてやる!)
と、思っていた――…
頭の先から爪の先までずぶ濡れになったその週末も、響は良太に会えなかった。
(もう二週間以上会ってない)
一応昨日は電話で声が聞けたけれど、ただ良太の声を聞いただけで今の響が満足できるはずもなかった。
一分一秒、とまでは行かなくても、素直に縋り付きたくなる自分を誤魔化すように、
「毎日会いたいなんて、言わない」
と胸の中で呪文を唱えるようにその言葉を繰り返しても、顔が見える近くにいて、できたらその隣を自分一人が独占したいと思っている本音が、響の体を突き破って飛び出しそうなのだ。
良太を求めて止まない欲求が、口まで登り詰めている。
我慢しなければ、という、ギリギリの感情がそんな響の喉を締め付けて、息苦しさに喘ぎたくなる。
(…どうして会ってくれないの?)
『仕事が忙しいから』と、いつも判で押したような返事しかくれない良太。
でもこう長い間会えない日が続くと、良太の言葉が本当なのかと、疑わしく思えてくる。
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