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なかなか会ってもらえない理由―――まず最初に思い浮かぶ単語が、『浮気』。
付き合っているからといって、ほとんど響の一方的な片想いに近い状態な上に、良太のことを四六時中自分に縛っていられるだけの力がないせいで、安易な考えに思考が走りやすくなっている。
良太がそんなことをするはずがない、と即座に否定するように考えてみても、自分のそんな言葉は所詮焼石に水で、その単語が胸に浮かぶと、途端に不安になる。
「…ダメだって。 疑いだしたらキリがないんだから」
好きな気持ちだけを押し付けても、その見返りに自分と同じ気持ちを相手から貰えるとは限らない。
好きだからこそ、好きになった人が何を考え、何を望んでいるのかを胸にある想いの温度より少し冷めた気持ちで考えなければならないと思う。
それに、良太という複雑な背景を背負っている相手なら尚更、がむしゃらに向かって行ってはならないのだから、慎重に向き合わなければならないだろう。
(…こんなに、好きなのになぁ)
長々と続くHRが気にならないくらい、ぐるぐると恋について考えているのに、いつまでたっても良太の心を独り占めできないことにため息をつく。
…平和な日常が響の耳を上滑りしていくのに任せて、ずるりと肩を落として机の上に顔を伏せた。
「そろそろ全県大会とか始まるからなー、補欠とかで参加する奴も、怪我には十分気をつけるんだぞー」
「へーい」
「は~い!」
(!?)
突然低音の返事が響の耳元に聞こえたことに驚き、我を忘れて身を起こす。
一体どこから? と思いつつも、声のした方――窓の外を、半信半疑ながら、見る。
と。
そこには『とっとと』忘れたかった、あの徳川太司が、窓枠の桟に両腕を乗せるポーズを取って、びっくりしている響の顔を見上げていた。
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