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「――何、してんの?」
びっくりしすぎて、押し殺したような声が響の唇から零れる。
突然現れた思いもかけない人の出現にびっくりして目を丸くしている響に向かって、太司は唇を大きく弓なりにして笑いかけた。
(やっぱ可愛いな)
響の琥珀色の瞳に見惚れて笑みを隠し切れなくなった太司は、日に焼けた腕を伸ばすと、その指の先で響の唇に触れた。
「こんなに目立つカオしてんのに…見つけるまで、一週間もかかった」
「! 勝手に触んなよッ」
(なんだコイツ…!)
触られた所から全身に火が点いたように熱くなり、響は慌てて太司の指を払い立ち上がる。
現れるのも唐突なら、やることも唐突な太司を上から睨みつける響の心臓が、有り得ない早さで走り出す。
…こんな、よく知りもしない人に振り回されている。
冷静にならなければ。 学校では大人しく、人の目につかないようにしなくちゃ…と、自分のペースを掴まないとと思っている響の後ろから、
「徳川先輩っ!?」
と言う女子の、悲鳴にも似た声が上がり、びっくりした響はその声に弾かれるようにして振り返った。
「ハァイ、マミコちゃん」
「いゃあッ、手ッ…離さないでぇっ!!」
太司と顔見知りなのだろうか、太司が片手を離して手を振った途端、彼女の顔から血の気が引く。
「チョーやばくない!?」
「あっぶねぇって!」
と、クラス中にざわめきが広がる中、ドキドキが治まった胸に手を置いて太司の方に向き直った響は、ほかのクラスメートたちが窓の外に身を乗り出すようにして太司を見ているのに習って、響も太司がいない窓から外に身を乗り出して見る。
(…バカか、コイツ)
太司は、三階にある響の教室の窓枠に、ぶら下がっていたのだ。
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