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「良かった~」
「…っつーか、やっぱあの先輩らしいよな」
「っていうかー、人に指突き付けちゃダメなんだよぉ~」
「小さい子って…オレらのことかよ」
「馬鹿にしてンよなぁ」
響に手を振って非常階段を駆け降りて行く太司を追い掛ける担任の姿を見ながら、クラスメートたちが口々に感想を漏らす。
「…っていうか、立花くん」
その中から、一人の女子が響の横顔に向かって声をかけてくる。
「立花くんって、徳川先輩と知り合いなの?」
その一言が見えない糸のようにクラスメートたちの視線に張り巡らせられ、一斉に響のことを見た。
「え…」
(な、何…?)
あの先輩、そんなに有名だったの? と戸惑っている響を見ていた女子の二人が視線を外し、互いの顔を見合わせると、
「きゃあ」
と、はしゃいだ声を上げた。
「タイジ先輩と接点ないって諦めてたけど…これって、もしかしてもしかしてってヤツ?」
「かもよ、かも!」
「えっ、マジでッ、お近づきッ!?」
二人の会話に飛び入りした女子のせいで、話がどんどん大きくなり始めているのを目の当たりにして、響は内心焦る。
「べ、別にオレ」
あんなヤツとはなんでもない、という響の言葉を誰も聞かずに、めいめい勝手に話し出す。
(…いいよ、もう)
放っておけばそのうち収まるだろ、と周りの騒ぎを解釈した響は、空に近いカバンを肩にかけて席を立ち、戻ってくる気配の担任を待たずにさっさと騒がしい教室を後にする。
勝手に帰ろうとする響に数人のクラスメートが声をかけてきたが、冷たい視線を投げ返すと、あっさり引き下がり、響に道を譲った。
それ以上何もして来ない連中を一瞥すると、細い肩を翻して歩き出す。
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