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「…あんなやつとさ」
「ああ」
徳川先輩が…ダチ? という言葉にしなくとも通じ合う二人の思い通り、太司と響の関係性は実に不可思議に思えたが、一部のクラスメートたちにとっては、そんな疑問さえ無視してしまうほど『雲の上の人・徳川太司』に近づけるチャンスを得たとばかりに、異常な盛り上がりを見せていた。
だがしかし、響に冷たい視線を投げ掛けられたクラスメートたちが思った通り、校内では『誰とも無難に接するけれど、その分誰とも関わりを持とうとしないつまんない奴』響と、『人付き合いが上手くて、カリスマ要素テンコ盛りな男前』太司とが、仲がいいなど――真実有り得ない。
けれどそれを忘れさせてしまうほど、太司との接点を持つことはその人の『ステータス』となり、誰もがそれを欲して彼のことを躍起になって求めていた。
(あんなセクハラまがいのヤツなのに、人気あるんだ)
良太が第一、それ以外のことなんて眼中にない、と公言したくてたまらない響の目に映る太司という人間は、偏光が入り混じって見える存在で、その魅力など風の前の塵と同じようにしか感じていなかった。
「!」
下駄箱に靴を仕舞い、学外へ出ようとしていた響の胸ポケットに入れていたスマホが震えて、メールの着信を知らせる。
(良太さんからだ!)
響の言葉に「きっと」という単語が付かないのは、響のメルアドを知っているのが良太と響の兄である光だけだからだ。
細かい作業を苦手とする不器用な光が滅多なことではメールを寄越さないことからも、学校では決して見せない慌ただしい素振りでスマホを開き、メールを送信して来た相手を確認する。
「――…」
メールの送り主は、響が会いたくてたまらないと思っている、良太からで間違いなかった。
しかしその内容を確認すると…良太の名前を見て天使の微笑みのように笑んだその表情が、急激に冷めて行く。
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