恋のはじまり

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    光に借りていた本がある。   おれの部屋にあるから、近日中に返してくれ。   よろしく。 (人をパシリにすんなっつーの…)  脱力感が響の全身を襲い、悪態にも力が入らない。  ――…どうしてこう、一方通行になるんだろう。  響は、心の底から良太のことを想っている。  常識では考えられない関係を孕んだ繋がりは、他人に理解してもらえないと分かっているけれど、それでも良太が好きだから、求められるままこの体を許したほど…愛しているのに。  愛している。 でも、良太には響の思いが伝わっていないとしか思えないほど、響の気持ちを大事にしてもらえていなかった。  好きになってくれなくてもいいからと、はじめに言ったのは確かだ。  だけど心も体も委ねているのだから…少しは自分の方を、振り向いて見てもいいんじゃないかとささやかに願う。  ささやかだからこそ――募る想い。  少しでもいいから、と、荒れ地でスコールを待つ花のような状態が、どんなに辛いか… 「分かってねーだろ、…バカ」  こんなことには慣れてるから、と、自分の切ない恋情を誤魔化すための常套句を胸の中で嘯きながら、ため息をつくついでにスマホをポケットにしまうと、がっかりした気持ちを背中で現すように肩を落とし、帰路についたのだっだ。  すぐにでも光に本を返しにいけば楽になれるのに、それでも顔を合わせたくないという気持ちが響に二の足を踏ませていた。  しかしどんなに『会いたくない』と思っていても、あれから電話の一本も寄越さない良太の、無言のプレッシャーに響の精神が勝るはずもなく。  光に会うことを拒絶して足を突っ張っていられたのは、良太からメールを貰ってから三日目までだった。 .
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