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「話の途中で腰が折れちゃったけど、とにかく、このクラブでは書類申請が必要なんだ。 その書類を本社の方に提出して、各部署と擦り合わせを済ませられた人しか入会できない、会員制のスイミングクラブなんだから、いくらコーチをしている僕に直談判をしても無駄だし、話にならないんだよ?」
空いた方の手を逆三角形にくびれたウエストに置いてそう言った光は、真剣な顔をして太司に言葉を吐いた。
「水が好きだっていう君の熱意は、正直僕も共感できるから協力したいと思うけれど…それとクラブ側の規約は別物だし、比べられる対象でもない。 だから諦めて、大人しく帰ってくれないかな」
日頃から温和な性格で通っている光が、語尾になるに従ってしんどそうな口運びながらも、太司を突っぱねる言葉を明瞭に示した。
そんな光と長年兄弟をしている響には、光が発した言葉の重みが分かったが、果たしてその言葉を向けられた当の本人に伝わったんだろうか…と太司の顔色を伺うと、あまり口にしたくない言葉を吐いた光の苦悩が伝わっていない顔つきをして、光の目を一心に見ていた。
「オレは一日でも水に浸からずにはいられない」
「だからさっきも言ったけど、お風呂に浸かって」
「スイミングのコーチしてるあんたなら、『浸かる』っていう言葉の意味、分かんだろッ!!」
光の苦し紛れの辛口さえ許さずにそう言った太司は、拳を握りしめて自分の苛立ちを紛らわせるように叫んだ。
「オレから水を取り上げんなよッ! 水はオレの命なんだッ…!」
太司がそう叫んだ瞬間、辺り一体の音という音が掻き消え、血を吐くような太司の言葉が室内に響き渡った。
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