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――辺りに広がる水を打ったような沈黙に気がついた太司は、ふと我を取り戻したようだ。
一気に耳まで赤くなると、びっくりして目を丸くしている立花兄弟の視線から逃れるように俯くと、
「つーか、なんつーか…」
と、苦し紛れの言葉を吐いた。
「なに、熱くなってんスかね、オレ…自業自得なくせに」
(!)
太司の呟きに、響の頭の中に閃くような光が射す。
…確かあの騒ぎを起こしたことで、部活動一週間停止処分になっていたはずだ。
その処分を学校の掲示板で見た響は、
「随分緩いなぁ」
と思ったこともあって処分内容を覚えていたのだが、緩いと感じた響の思惑とは裏腹に、処罰を下された太司にとっては、一番きつい『罰』だったようだ。
「すみません…ご迷惑をおかけしました」
半袖からのぞく腕についた美しい筋肉に力を込めて拳を握った太司はそう言うと、光に向かって深くお辞儀をして背を向けた。
「あ…」
光の戸惑いの声にも振り向かず、太司は大股で歩き去ってしまう。
水は命、だなんて…相当水泳に入れ込んでんだな~、とぼんやり思っていた響だったが、隣に立っていた光が大きなため息をついたのを耳にして、びょくん! と体を震わせ我に返る。
(どうしよう…!)
公共の場とはいえ、実質二人きり。
間に立ってくれる人がいない状態ではタイマンに等しい…と、どうしたらこの状況から逃げ出せるのかとパニックを起こしながら考えを巡らせる響に向かって、光は昔から変わらない親しみのある声音で響の名を呼んだ。
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