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「なんでよりにもよってオレの身内ンとこ来るワケ? 大概にしろよな~」
弱気になっていた気持ちを鼓舞するように虚勢を張ると、響は腕を組んで胸を反らす。
そんな響を見て眉を動かした太司は慌てて体の前で小さく両手を振ると、らしくもなく戸惑いの声を上げた。
「ぜ、全然知らなかったんだってば、偶然だよ、ぐーぜん!」
「…ふーん」
と、慌てる太司をよそに鼻を鳴らした響はうろんな表情を浮かべて太司の目を見た。
じと、と、太司の言葉を疑い目を眇る響の様子に更に慌てふためきながら、懸命な言い訳を口にする。
「もう、それこそ…お前に会いたいっていう気持ちはあるけど、こんな所まで来て迷惑かけるつもりなんかないっていうか…」
校内切っての有名人が、学校内一ジミ~に無難に学生生活を終えようと勤めている少年の前でしどろもどろになっている様を、もし太司を慕う者が見たら――それこそ次の日、響は学校で無事な一日を過ごせないだろう。
しかし幸いにも、ここには太司のカリスマに惹かれる人間はいない。
それをいいことに、響は強気な態度を崩さず真っ赤になって焦っている太司に向かって話し続けた。
「頼むから、あんまりオレに関わらないでくれる?」
太司の取り巻きが聞いたら卒倒してしまいそうな一言を、響はいとも簡単に吐き捨てる。
(関わるな、って言われても…)
太司は響に対して、もっと近づいて、もっと響のことを知りたいという興味を抱いていた。
太司のことを全く知らない素振りの響にインパクトを与えるためにあんな行動を取ってしまったけれど、今回のことは全くの偶然なんだし、大目に見てほしい。
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